人口7万3千人に過ぎないのに、夏の間だけ世界中から10万を超える人々が訪れるドイツの都市はどこか?答えはバイロイト。なぜそんなにも多くの人が小さな都市に集まるのか?リヒャルト・ワーグナー(右写真)のファンが毎年この時期に上演される彼のオペラを聴くために一斉に集まる。熱狂的なワーグナーファンでない私も2024年この音楽祭を聴きに行ってきた。
バイロイト音楽祭はワーグナー自身が彼の代表作である「ニーベルングの指環」を上演するために創設した音楽祭で、上演演目はワーグナーのオペラ作品に限られる。もちろん「指環」以外にも「タンホイザー」や「ローエングリン」といったポピュラーな作品も上演され、1カ月の間にトータルで約30回(同一作品の重複を含む)ワーグナーのオペラが上演される。
今回トルコ航空でイスタンブールを経由してニュルンベルク空港から専用車でバイロイトへ向かった。同行したドイツ在住の日本人ガイドの話によると、待遇改善を求める労働者のストライキや環境保護活動家による反対運動のため、ドイツ国内における航空機は欠航が多く、ヨーロッパ外から直接ドイツへ入る方が確実に目的地に到着できるという説明であった。ホテルは大きくはないが、宿泊客には朝食の他昼食も提供されるので重宝した。バイロイトは小さい都市なので、ホテル周辺に食事を提供する店が極めて少ないからである。



楽劇「ニーベルングの指環」4部作「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」は「ラインの黄金」を除いて、2回の休憩を挟んで16時開演、22時終演の長丁場なので体力勝負だ。1時間の休憩時間は長いと思ったが、待ち時間を含めて食事をしているとあっという間に過ぎてしまう。
この劇場は椅子(右写真)が木でむき出しのため、受付で小さめのクッションを貸し出してくれる。ただ腰椎の具合が悪いので念のため日本から大きめのクッションを持参した。初日は受付で事情を説明して了承してもらったが、2日目は屈強なガードマンが横に来て、外部からの持ち込みは絶対に認めないと言って自説を曲げない。こちらもむきになって言い返すと、いつの間にか周囲に人垣ができていた。クッションを必要とする医者の証明書があれば認めると言うが、さすがにそれは持ってきていない。小さめのクッションを3枚借りて何とか凌ぐことができた。
さて話を本題に戻すと、「指環」4部作は同一の指揮者・演出家が一括担当する建前となっていて、2024年は音楽祭史上初めて女性指揮者(シモーネ・ヤング:右写真)が起用された。また、全公演を通じて女性指揮者の数が男性指揮者を上回ったのも画期的と言えるだろう。
ワーグナーのオペラは中世を題材にしているが、バイロイト音楽祭は時代を現代に置き換える等演出は物議を醸すことが多い。「神々の黄昏」の終盤英雄ジークフリートが刺された後有名な葬送行進曲が流れる場面で、ジークフリートは薄汚れたプールの底で放置されたままなのは英雄の最後にふさわしくない。さすがに終演後、歌手陣には熱狂的な喝采が送られたが、監督・演出チームにはブーイングが浴びせられた。この音楽祭はオーケストラや歌手の歌唱を聴くもので、演出は度外視してもいいのだと実感した。
すべての演目を1階の前方席で鑑賞したが、観客の目線の延長線上に歌手がいて非常に見やすかった。冷房は入っているとのことだが、満員の人いきれで会場に熱気がこもってくるのを感じた。さすがにワーグナーのオペラは長く、途中退屈する場面もあったが、「神々の黄昏」のフィナーレは素晴らしかった。バイロイトは小さな町だが、世界遺産に登録された「バイロイト辺境伯歌劇場」は、当時のヨーロッパにおけるバロック様式のスケールの大きな木造建築で、訪れるに値する。百聞は一見に如かず。欧州屈指の音楽祭を現地で見聴きして得るものが多い旅だった。(7期生 福島正純)
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