11月定例会報告
1活動日 2015年11月9日(月)10時半~14時
2場 所 滝乃川学園 石井亮一・筆子記念館(国指定有形登録文化財)訪問
3出席者 8名(会員)
4テーマ 「日本女性の近代を切りひらいた石井筆子(1861年~1944年)の人生を辿る」
英語、フランス語、オランダ語に堪能で早くから日本女性で初めて男女同権、女性の教育の必要性を説き鹿鳴館では「宴の華」とうたわれた筆子。後半は夫亮一を支え知的障害児の母として二つの人生を生き抜いた。明治から昭和の時代に夫とともに日本初の知的障害児者の施設「滝乃川学園」を築き上げた筆子は、周囲の偏見や無関心と闘い、学園の火災や財政難、夫の死などの苦難に遭いながらも、障害者とともに生きた不世出の教育者であったが、無名の人であった。
JR南武線矢川駅に集合し歩くこと7分ほどで滝乃川学園に到着した。鬱蒼と木々が繁る広大な敷地の中を矢川が流れていてとても自然豊かな環境であるが、1928年学園が移ってきた頃は勿論駅もなかったとか。園内を暫く行くと趣きのあるモダンな建物(石井亮一・筆子記念館)があり、館長の米川様が笑顔で出迎えてくださった。
米川様は記念館二階の講堂で石井亮一・筆子夫妻のことや滝乃川学園の設立から現在に至るまでの歴史、また更にこれからの課題などパワーポイントを駆使しながらお話しくださった。学園は今や地域の高齢者や知的障害者に特化した教育・養護・研究・職員養成と総合的な福祉施設となっている。
その後見学した鉄筋コンクリート造の聖三一礼拝堂(日本聖公会のマキム監督よりの寄付)は温かい雰囲気に包まれていて、その中には筆子の最初の結婚祝いに贈られ筆子もよく学園で弾いていたという古色蒼然としたピアノがあった。日本最古のピアノの一つと言われていて現在も学園での礼拝やコンサートで演奏されている。このピアノは正面の左右に蜀台がありピアノ中央に二人の子供を抱く天使のガラス絵が焼き付けられていることから、「天使のピアノ」と言われていて、2007年12月には美智子皇后もお忍びで弾きに来られたそうである。
正門の脇には「森のカフェ」と書かれたパステルグリーンの小屋があった。昭和の初めに建てられた木造平屋の建物で、来訪者、近隣の方、礼拝に来た方など誰でも利用できるとか。カフェのテーマはWorld Without Wall(壁の無い世界・・・・・障害者も老人も子供も隔たりのない世界)。2013年4月から週末のみ解放、入所者手作りのお菓子と飲み物で多い日は100人も来られるそうである。園内は誰でも自由に出入りができるようにしているが、その代り入所者が時々外に出て行ってしまうというハプニングもあると米川様は楽しげに話されていた。学園の壁を作らない福祉の理念に深く感動させられ、学園を後にした。
「いばら路を知りてささげし身にしあれは いかて撓まん撓むへきかは」
1942年『過ぎにし日の旅行日記』の序文に記載された筆子の短歌
<聖三一礼拝堂の前で米川館長と>
筆子は3人の障害を持つ娘を社会の重荷と思った時もあったようだが、娘たちの死を乗り越えて、社会的名声よりも学園の子ども達を守り育てることが自分に与えられた使命として二つの人生を生き切ったのではないだろうか。
今回の訪問を通して「いと小さき者にすることは、私にすることだ」というキリスト教の信仰に基づき、障害児問題について数々の困難を乗り越えてきた石井亮一、筆子という素晴しい先達に出会うことができた。滝乃川学園という一粒の麦が地に落ちて、現在では障害者施設は6千までになったそうである。また併せて立教大学、立教女学院、聖公会等が滝乃川学園に深く関わり支援してきたことも知ることができた。
現在の滝乃川学園は敷地内に障害を持つ方が約120人、5才から96才の方が生活されていて、地域のグループホームで生活している方も約130人、職員は約250人で、登録ヘルパーさんが50名という構成だそうです。創立から既に124年、国立市谷保に移ってから87年、何と長く小さき弱き者たちに心を寄せ続けてきてくださったことか・・・・・そしてこれからも。
<関連図書>
『無名の人 石井筆子』一番ケ瀬康子・津曲裕次・河尾豊司編(2004年)
『筆子その愛~世界で一番美しい涙の物語~』山田火砂子・車取ウキヨ(2006年)
『いばら路を知りてささげし~石井筆子の二つの人生~』井出孫六著(2013年)
『婦人之友』(2013年6月号)での座談会記事「小さき友とともにー石井筆子の足跡」
『明治の国際人・石井筆子デンマーク女性ヨハンネ・ミュンターとの交流』
長島要一著(2014年)
<映画・TV>
2006年公開 映画『筆子・その愛・天使のピアノ』(現代プロダクション)
2006年12月放映 NHKテレビ『その時歴史は動いた』「母の灯火(ともしび)小さき者を照らして-石井筆子・知的障害児教育の道-」等 (記:小杉)
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