越境する学びの旅へ ― 梅の里みなべから広がるつながり
大和田 順子(教育テック大学院大学教育経営コース教授)
RSSCの皆さんとは、授業の場を超えて、いろいろな地域活動をご一緒してきました。2011年の東日本大震災後に始まった「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」(福島県いわき市)のボランティアツアーや、「世界農業遺産」・「SDGs未来都市」に選ばれた宮城県大崎市での植樹活動など、その時々の出会いと体験は、私にとっても思い出深い学びの旅でした。
そして今年6月8日〜9日には、16期修了生の島野裕子さんらが立ち上げた(一社)アクティブサポーターズ主催「アクサポツアーinみなべ」にも参加しました。都市に暮らすシニアが農山村や海の課題解決に関わりながら、交流やボランティアを通じて新しいつながりをつくっていく―その理念は、RSSCの学びをそのまま社会で実践している姿だと思います。
私がアドバイザーを務めている和歌山県みなべ町は、日本一の梅の里。2015年に「世界農業遺産」に認定、2024年には「SDGs未来都市」に選定された、挑戦を続ける町です。「南高梅」発祥の地でもあり、地域の誇りと未来をつなぐ取り組みが進んでいます。
オンラインでの事前学習には山本秀平町長も参加くださり、現地には8名が訪問しました。梅振興館で歴史や梅の健康機能を学んだあと、午後はいよいよ「梅収穫ワーケーション」へ。傾斜地に広がる梅畑で青梅を収穫したり、ネットの上に落ちた梅を拾ったり。腰をかがめ続ける作業は大変でしたが、農家さんと一緒に汗をかく時間は、都会では味わえない豊かなひとときでした。農家の東光淑行さんが「都会の人と交流して、自分も変わった気がする」と語ってくださった言葉が、心に残りました。
このワーケーションは2022年に始まり、今では毎年数百人が都市部から参加。体験をきっかけに「応援団」として継続的に関わる人も多く、地域と都市をつなぐ力になっています。
翌日は役場で梅研究20年の宇都宮洋才先生(医学博士)から講義を受け、町長・職員の方々と意見交換。さらに「南高梅」発祥の高田果園、有機栽培や農福連携に取り組む農園を訪れ、未来を見据えたお取り組みをお聞きしました。
私は近年「越境学習」に注目しています。自分の日頃の慣れた環境を越え、異なる人や文化と出会う中で新しい学びや変化を生み出すことです。RSSC自体がそうした「越境」の場ですが、地域に出かけ、人と出会い、語り合うことは、その実践そのものだと思います。
修了生の皆さんへ。「地域課題を解決しなくては」とか「貢献しよう」と思わなくてもいいと思います。まずは訪れ、関わり、語り合う。その小さな一歩が、きっと人生をさらに豊かにしてくれるでしょう。
私たちシニアは、自由に越境できる世代です。これからも、ご一緒に地域に出かけ、地域固有の価値観や歴史・文化と出会い、互いを深めていきましょう。私自身、これからも学びの旅を続けていきたいと思っています。
※一般社団法人アクティブサポーターズ https://sites.google.com/view/acsp-rssc/
この記事の投稿者
最新の投稿記事
HCD20252025年10月9日【HCD特別寄稿】西原廉太学長からのご寄稿
HCD20252025年10月9日【HCD特別寄稿】水上徹男先生からのご寄稿
HCD20252025年10月9日【HCD特別寄稿】野呂芳明先生からのご寄稿
HCD20252025年10月9日【HCD特別寄稿】上田信先生からの先生からのご寄稿