昨年の秋も深まった頃、“野菜作りにチャレンジするのはおもしろいかも?”と思い立ち、道具・肥料・栽培アドバイス付きで有機無農薬の野菜作りができる体験農園を見学に出かけてみた。
「私なんかにできますかね」
「男の人は結構ハマるようですよ。肥料を工夫してみたり、いろいろな野菜の作付けを考えたり、勉強熱心な方が多いですね」
「これまで土いじりには全く興味はなくて、好きか嫌いかと問われれば“嫌い”と答えるような人間だったけど……」
「ここで過ごす時間は案外いいもんですよ。外で日にあたると気持ちがいい。ただし、夏は朝早く起きて9時を過ぎたら作業はやめること」
アドバイザーのTさんとのやり取りは私の不安を少しずつ和らげ、一歩踏み出してみようという気持ちに傾いてきた。

「ツグミが来たよ~! 今年初めて見るね」
Tさんは一緒に来ていた小学2年生の息子さんに声をかけた。ほんの10mほど先の杭の上で、黒いうろこ模様を見せびらかすように、胸を張って止まっているツグミの姿はちょっと偉そうにも見えた。冬を越すためにはるばるシベリアからやってきたのだ。エサが豊富であることを祈りたい。 「ここはバードウオッチングも楽しめますョ。普段は双眼鏡を持ってくるんですけどね」

2月下旬、土づくり、畝立ての日がやってきた。快晴だが北風が強く気温は低い、でも日差しには春が近づいてきているぬくもりが感じられた。畑一面には赤紫色の花を咲かせたホトケノザが広がっていて、一瞬クワを入れるのをためらうほどだった。
「この花がよく咲くのは野菜作りに適した土だという証拠なんです」
「ホトケノザって、春の七草の?」
「春の七草のホトケノザとは全く別物です」
たかだか3m×4mの区画である。耕すのにさしたる時間はかからなかった。
「ジャガイモから始めると聞いたけど、ほかに何を作ればいいかな」
「それを考えるのが楽しみの一つです。自分の食べたいものを作るのが一番ですよ」

作業を終えた畑にツグミがやってきた。どうやら彼のエサを掘り起こしたようだ。
「いつ帰るんだい」
「来月かな、戻ったら子育てで忙しいのさ」
「ここの居心地はどうだい」
「わりと気に入ってるよ。秋にはまた来るかもね。じゃあな!」

さて、秋にツグミが来るまでにどんな野菜が収穫できるだろうか。作付け計画の基本方針は「少量多品種」でいこう。まずは作りたい(食べたい)野菜のリストアップから始めることにし、ジャガイモの種芋を入手しよう。今年の春は忙しくなりそうだ。(7期生:石巻)

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