シニアのイノヴェーション

高橋輝暁
立教大学名誉教授
立教セカンドステージ大学講師

 「万物は流転する」と古代ギリシアの自然哲学者ヘラクレイトスは2500年前に考えたという。日本でも800年前に鴨長明が『方丈記』に「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」と記した。私たちは、自然の中に、そして社会の中に生きているけれど、自然も社会も絶えず変化する。

 とはいえ、昔は春夏秋冬がほぼ同じように繰り返していた。社会の変化も特別の事件がない限り、ゆっくりだった。今は違う。どの季節も、毎年のように異常気象なのだ。私たちの生活様式の変革が求められている。

 資本主義社会では、イノヴェーションなくして、経済成長はない。それどころか、次々とイノヴェーションを繰り出さないと、どんどん貧しくなるらしい。社会のイノヴェーションのためには、それを構成する人間のイノヴェーションも必要だ。今は変化のテンポが速いから、世代交代を待てない。私たち自身が、自己の更新を求められる。

 それは職業上の定年を迎えたシニアも一緒だ。シニア世代の人口比が高ければ、その世代の社会的影響力も大きい。「高齢化社会」では、選挙でもシニア世代が最大の票田だから、政策もシニア世代の意向に強く左右される。シニア世代が自己自身のイノヴェーションを怠るなら、社会のイノヴェーションが進まず、急速に貧しくなってゆく。これでは、次の世代にとって迷惑このうえない。無常をかこつこともなく、あるいは過去の「成功体験」に安住もせず、自己のイノヴェーションを遂げてゆくシニアこそ、今の時代に相応しいのだろう。それは、たえず自己を変革する「教養人としてのシニア」* にほかならない。

 *RSSC同窓会サイト https://rssc-dsk.net/archives/15760 の拙稿を参照。