「最近の世相から思うこと―存在論的関係性の再確認―」

本科ゼミ担当 佐々木一也

 今年もコロナで明けてコロナで暮れそうです。また、年明け2月からロシアが開始したウクライナ侵略戦争では抑止力のためだったはずの核兵器の実戦使用が取り沙汰されています。今私たちは体の内からも外からも生存が脅かされているのです。人類はその知力と体力、それらの原動力である欲望によって高度な文明を生み出し、他の生物種より格段に安全な生存環境を整えてきました。しかし、コロナやロシアの戦争は、個人同士、国家同士に分断と生死を分ける格差があることを露呈しました。本来、現代文明の下では国家も人も単独では存在できないはずです。文明生活は分業による助け合いによって複雑な生活様式を実現できますし、国家も相互扶助の関係にあってこそ豊かな繁栄を実現できるからです。今の問題の遠因は自己が他者との関係抜きには存在できないという当たり前のことを忘れていることにあるのではないでしょうか。他者との関係は歴史的に蓄積されてきたものです。その歴史には争い、戦いといった負の関係も含まれます。しかし、それらの経験の蓄積の結果現在の平和を維持しようとする国際秩序や平等に幸福を追求できる社会秩序があるわけです。すべての個人や国家がそれぞれに他者と関わり続けてきた歴史を振り返って今の自分の根源を自覚し、目の前の他者との歴史的繋がりを理解して、他者が他者でありながら同時に自己と繋がる部分を持っていることを自覚すれば、際限なく他者を否定して自己拡大を続けることもなくなるのではないでしょうか。他者との共存こそが本当の自己実現だということが分かるはずです。シニアの年齢に入った私たちには、前方にセカンドステージを見据えつつも後方を振り返る余裕があります。自分の来し方を見ることによってはじめて見える周りというものもあるでしょう。このことを現役世代に伝えることも私たちの役目かもしれません。