私の日常と好み――人が気になります――

栗田 和明

 広く旅をした民俗学者の宮本常一は、瀬戸内海の屋代島(山口県)で生まれた。島から出る時に、父親から新しい土地を見るときの心得を伝えられた。いくつかあるが、「まず高いところに登って、地勢を見なさい」「中心地の駅やバスターミナルに行って、人々がどのように動き、どんなものが流通しているか見なさい」などである。すべて腑に落ちることで、私も新しい土地を訪問したら、スーパーマーケット、市場、駅、それに居酒屋を訪問し人々の様子、食べ物などを見ている。

 こうしたことは民俗学、文化人類学などをやっている者には習い性になっているようである。現在は国外で観察する機会がないが、それでも国内の電車の中でも、改札口でも、喫茶店でも、複数の人がいる様子を観察して、「彼・彼女たちは何をしようとしているのか」と想像を巡らせる。駅の改札口付近や横断歩道付近で立ち止まっているへんなおじさんと思われてしまうかもしれない。あまり極端ではない程度にしたい。

 私のように複数の人々に惹きつけられるのは、かならずしも万人共通ではない。美しい花、建物、自動車、また香りや音に注意を向けている人もある。どんなことに注意を向けているかは、その人の生活におのずとにじみ出している。私は水彩画スケッチを描いているが、その題材を振り返っても、人への関心が出ていることを発見した。過去作品を振り返ってみると、人がはいっていないと描く意欲がわかないようで、我ながら驚いている。最後に、厚顔にも人が多数出ているスケッチを紹介しよう。

 左上から時計回りに。朝の改札口→夜のカフェでくつろぐアフリカ人交易人(ホーチミン市)→駄菓子にあつまる子供たち→駅前のアーケード→集団登校の小学生→帰宅ラッシュ(ハノイ)→客待ちをするオートバイタクシー(ダルエスサラーム)→昼のカフェ(ヨハネスブルグ)→真ん中は、自転車をこぐ人々。