「心柱」は変わらず
私の好きな言葉の一つに「明珠在掌」(みょうじゅ たなごころに あり)と言う禅語があります。青い鳥の寓話の如く、宝とすべきものは、遠くに求めなくとも身近なところ、手の中、心の中にあると解釈しています。
公共放送NHKの記者として入局して40数年を過ごした後、立教大学セカンドステージ大学の教壇に立って、今年で7年目です。新型コロナ感染拡大で困難が重なる中でも、聴講生の学びに対する意欲と不断の努力、そして、この良き伝統・歴史を築いた聴講生のOBの心意気に心から敬意を表します。
1年延長された東京オリパラをテレビ観戦しながら思ったことがありました。後輩には厳しいかもしれませんが、特設スタジオをベースに大きなカンニングペーパーを手元に置いて話すNHKの“花形アナウンサー”の勉強不足・お粗末さ、それに比べて“ゲスト出演”の北島康介さん・櫻井翔さん・増田明美さんらの自分の言葉で生き生きと語る心に届く厚みのあるコメント。“やっつけ仕事”では例えプロであっても、粗が見えてしまう証しでした。その時、私が接したセカンドステージ大学の聴講生の卒業論文を思い出しました。障害者の子供を育てた経験と当時のママ友へのアンケート調査を基にした内容でした。涙と感動を覚えながら読みました。論文としての所謂“スタイル”を飛び越えた、心に響く今もって忘れ難き綴りでした。
アメリカ同時多発テロ事件から20年です。私は、1年後、ニューヨークの現場に立ちました。近くにアトリエを構えていた日本画の千住博さんと懇談する機会がありました。千住さんは「凄惨な現場とアメリカの知人を失ったショックで、一時、筆を折ろうと考えた」と告白しました。その後、千住さんは、1200年前、空海が開いた高野山金剛峯寺の白襖に、初めて筆を入れたのです。千年先の人々に、時代の記録としてこの絵を残さねばならないという使命感で、6年の歳月をかけて空海との対話も重ね、完成させました。
将棋の藤井聡太さんが、羽生善治さんの記録を抜く史上最年少の19歳1カ月で3冠を達成したと大きく報道されました。藤井さんの強さの背景の評です。「天性の才能と不断の努力だけではない。時代との完璧な並走にある。AIを用いた序盤研究の深さと、少年期からの詰め将棋で培った圧倒的な終盤力が最大の強みだ。平成のアナログ力と令和のデジタル力の融合が若き3冠を生んだ」将に「不易流行」です。改革すべきは改革し、残すべき良き伝統・歴史は守っていくと言うものです。
私は、「教えることは学ぶこと」「歩歩是道場」皆さんと一緒になって人間力を高めていこうという「心柱」は変わることがありません。新型コロナ感染拡大が落ち着いたら、「そうだ奈良、行こう。」と言う気持ちになります。塔の中心を貫く「心柱」のある世界遺産・薬師寺の東塔は12年間の全面解体修理を終えました。現代技術の粋を集め1300年前の姿を取り戻しています。もちろん、高野山金剛峯寺にも立ち寄り、私自身の「心柱」を具現化しようと燃焼の時を過ごした博多の街まで旅しようと考えています。
立教大学セカンドステージ大学兼任講師
元NHK福岡放送局長・政治部記者
三浦 元