緊急事態宣言が全ての地域で解除になる直前の9月21日に、新宿にある住友ビルの三角広場で行われた『アウトサイドde太極拳』というイベントに参加した。『アウトサイドde太極拳』とは「外に出て太極拳を楽しもう」との掛け声で、コロナ禍の前から始まっていた、NPOが行う健康太極拳普及活動の一環であった。
日本における太極拳の歴史は、日中国交正常化(1972年)より以前、今から60年ほど前にさかのぼる。1959年10月に訪中した政治家、松村謙三、古井喜実に、当時の首相周恩来が、「太極拳が両国の友好と日本国民のお役に立てるなら」と、武術家李天驥(簡化24式太極拳編者)を直接引き合わせたことに始まるとされる(李天驥著『太極拳の真髄』BABジャパン出版局)。松村、古井らの帰国後、武術家楊名時らにより日本での一般大衆への普及が始まった。今回のイベントも、日本における太極拳創始60周年を記念してのものであった。
会場は2,000人程度収容可能な全天候型の広いイベント施設であった。コロナ禍ということもあり、東京都の認証を受けた感染予防対策は厳重で、マスク着用、検温、手指消毒、ソーシャルディスタンス等が徹底していた。一年半以上前に計画された当初は、1,000人程度の参加者を予定していたが、今回、最大でも140人程度に絞ったとのことであった。広い会場でもあり感染リスクは抑えられ、久しぶりの集団での太極拳演舞は気持ちの良いものであった。また、会場にある大型スクリーンには、全国各地の仲間からの投稿動画が常時流れていた。リアルタイムの映像ではなかったが、一体感を醸し出すには充分であった。
久しぶりに大勢の仲間と太極拳を演舞していると、ふと、「太極拳を40年近くもよく続けられたものだ」との思いが頭をよぎった。仲間と一緒だと楽しいし、体を動かすと気持ちが良く、身体能力も維持できる。健康に良いと思えるから続けられたのであろう。しかし、よくよく考えてみると、本当は「難しいから、簡単でないから」続けられ、楽しめたのではないだろうかと思えてきた。
現在広く普及している「24式太極拳」は、套路(型)自体は週一回の稽古で半年から一年ぐらいで覚えられるが、動きに意識と呼吸を合わせ、力を入れず、ゆっくり時間をかけて演舞するとなると、なかなか難しい。長年、毎日のように演舞していても、一度として自分の動きに完全に満足できたことがない。必ず納得のいかない動きや改善点が見つかる。そして次はもっと満足のいくようにやりたいと思う。「難しいから続けられ楽しめる」というと何か逆説的であるが、本心からそう思う。仕事でも、勉強でも、そして趣味の分野でも、指導者や仲間の存在が大きいことは言うまでもないが、実は「簡単じゃない。だから楽しい」と言えるものが、本当に好きでやりたいこと、生きがいにもつながるものなのかもしれない。
(7期生 北原)
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