「これは、手術した方がいいですね」
医者は先ほど撮ったレントゲンのフィルムにペンで指しながら、背骨の潰れ具合を説明している。
「下から3つ目の骨が潰れていますね。これが神経に悪さをして痛いんですよ」
私の頭の中では「手術」という言葉がグルグルと回り始めた。診断名は「脊柱管狭窄症」、2年前のことである。私は若い頃から腰痛に悩まされてきた。普段は日常生活に支障をきたさないように無理をしていないが、一旦悪化すると激痛が走り寝ることも座ることもままならない。

昨年の春、コロナ感染者が増加し緊急事態宣言が出された。それまでは趣味やボランティア活動で動き回っていたが、急に家で籠る生活になり体が固まっていくのを徐々に感じ始めていた。「手術」の二文字が頭をよぎり、背筋がゾッとした。コロナ禍で病院には罹りたくなかった。

気分転換に人の少ない公園を散歩してみると体が軽くなっていくのを感じた。そこで始めたのが、メディアで知ったインターバル速歩。インターバル速歩とは「大股での早歩き(さっさか歩き)」と「ゆっくり歩き」を3分間ずつ交互に繰り返すウォーキング法である。幸い近くに緑地公園がある。多少のアップダウンがあり、木々も多く静かで歩くのには好条件である。しかし、意気込むと三日坊主になってしまう過去の経験から、天候の良くない日は休み、体調が悪い時は休み、無理をしない気ままなウォーキングという緩い決まりで始めた。慣れてくると軽いジョギングも入れながら歩いた。歩き始めて2,3ヶ月経った頃、体の動きが良く、狭窄症を忘れている自分に気付いた。骨を支えている筋肉がウォーキングで補強されたのではないだろうかと思った。

10ヶ月ほどして、健康診断の数値を見て驚いた。これまでは、悪玉コレステロール(LDL)の数値が高いので服薬を勧められていた。悪玉コレステロール値は少し下がった程度だったが、善玉コレステロール(HDL)値はグンと上がり、LDLとHDLの対比が以前より改善されていた。調べてみるとジョギングやウォーキング等の有酸素運動はHDLの数値を増やすのにはよい方法だと分かった。体重も減少し予期せぬ副産物もついてきた。これで一気にモチベーションが上がった。続けられているもう一つの理由はロケーションの良さである。

春は桜が咲く道を、つつじが咲き終わると夏の百日紅が満開になる。蝉時雨の中を歩くのもいい。金木犀の香りで秋の到来を感じ、萩が小花を付けて枝を伸ばす。紅葉も見応えがある。イヤホンから聞こえる懐かしのフォークソングも速歩を後押ししてくれる。夏はぐっしょり汗をかくがその後のシャワーと冷たい牛乳はスカッとして最高、(ウォーキングやジョギングの後で飲む牛乳は筋力アップにつながるのだという。)休憩して次の家事もはかどり、気持ちに張りが出てきた事を実感している。

先日、緊急事態宣言が解除になり久しぶりに友達と食事をした。マスクを外して食べ終わった頃
「痩せた?」
と聞かれ、私は心の中で「きた!きたーッ!痩せたことが顔にも表れてきたんだ」とニンマリしていたら
「マスクを外したら、ほほのあたりがスーとして・・・」
と言葉を濁した。つまり、ほほの肉が下に落ちてしわが増えたということらしい。
「トホホホホッ」
万有引力の法則には逆らえません。この先、マスクを外す日常になってきたらと考えると怖くなってきた。しかし、今少しインターバル速歩は続けたい。(7期生 須藤とく子)

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