私は今、カンボジアで貧しい家庭の若者と一緒にパンやお菓子作りをしています。これまで25年以上、日本で人の生死について研究してきました。日本では「終活」という言葉もすっかり市民権を得て、どう最期を迎えるか、死後の葬送をどうするかを考える人が増えています。

一方、私は10年前に夫と死別したことをきっかけに、RSSCの方たちと一緒に、配偶者と死別した人の集まりを作り、亡くなった人の分まで前向きに生きる提案をしています。そんな日本と比べると、カンボジアでは終活をする人の話を聞いたことがありません。今日をどう生きるかの方が深刻で、先のことなど考えられない人が多いからです。健康診断の習慣もなく、気づいた時にはすでに手遅れで亡くなるのが当たり前です。健康保険制度もないので、貧しい人は病院に行くことすらできません。カンボジアでは、医者はお金のない人を助けません。

お金で命を買えるカンボジアで、若者たちに将来の夢を持ってもらうことが私の目標です。夢に向かってがんばる若者を心から応援したいと思います。ふわふわパンや添加物のないお菓子を食べたことがないカンボジアの若者たちに、一から作り方を手取り足取り教えています。

いっけんつながりがないように思えるかもしれませんが、カンボジアのベーカリーと日本での死生学研究は、どちらもどう生きるかという観点で、私の中で一貫しています。お金の有無や家族の有無に関係なく、誰もが安心して死を迎えられ、良い人生だったなと最後に思えるような社会のあり方を、これからも考えていきたいと思います。

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編集チーム 十二期生