何を思っているのだろう。写真の彼は、今年も薄曇りのお空に現れた飛行船に見入っている。彼には、雲がお空にあるように飛行船もお空にただあるのかもしれない。彼は重力を知らないから、と言うより重力を必要としないから、飛行船も鳥さんもお空にあるものだ。お魚が水の中にいるように、僕たちが地上に立っている様に。飛行船は、重力に逆らって浮かんでいるのではなく、お空にただ在るのだ。
僕たちは、ひとりひとりの知覚センサーを通して頭の中のバーチャルリアリティーを見ている。あるアメリカの研究者は、脳はひとつではなくて7つあるいはそれ以上のモジュールの組み合わせで出来ていると言う。レゴブロックを組合わせるみたいに。言葉のモジュール、論理と数学のモジュール、音楽のモジュール、空間認知のモジュール、身体運動のモジュールなどなど。とすると、ひとりひとりの知覚センサーの感度は違うし、脳のモジュールの大小やつながり方が違うから、僕と写真の彼とは異なる世界を見ているに違いない。「君はどんな世界を見ているの!?」と話しかけてみたい。
先日、Kissの会の有志と小田原に行った。落ち葉が幾重にも重なり、今は細い道になっている遠い昔の堀の底を歩いた。V字になった両側は大きな木に覆われていた。海からの風の音が聴こえる。新緑をたくさん付けて重そうな枝が揺れると、その間から6月の光がこぼれ落ちる。音楽モジュールや空間認知モジュールが豊かな人は、そこから音の世界をすくい取り、彫刻のイメージを掴むのかもしれない。僕たちもひとりひとりの世界を感じていた。Only is not lonely、、確実に時間を共有しながら。
メンバーから借りた村上春樹の新作の1部を読み終えて今2部を読んでいる。主人公は画家、舞台は小田原の切れ込んだ谷の上にあるアトリエ。画家には、人に見えないものが見える。彼の脳は、空間認知モジュールが大きくて豊かだから。
多分、僕たちの世界は、ひとりひとり少しずつ違うのだ。だから、僕たちはあなたのことが知りたくて、あなたがとてもいとおしい。飛行船をみている彼はどんな世界にいるのだろう。彼の写真と小田原の古いお堀と村上春樹の作品に囲まれて、僕は少し困惑している…。
【注記】“Only is not lonely”は糸井重里の「インターネット的」(PHP新書)にある言葉です。「人間にとって『孤独』は前提なのです。『ひとりぼっち』は当たり前の人間の姿です。でも、画面の向こうの『孤独』とこちらの『孤独』の間にネットでつながりができると『孤独』はなくなってします」とも、、。なお、英語としては正しくないみたい! と書いています。(7期 杉村)
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