南イタリアの町を訪ねて

10期生顧問 佐藤 勇一

 本科修了論文のテーマは“町並み保存”を取り上げました。ここではイタリア半島のかかとの辺りプーリア州に、地中海都市と田園地帯の旧い町並みをテーマとして訪ねてきたことを紹介します。

 南イタリアプーリア地方は、古代ギリシア、ローマ帝国の支配という歴史の蓄積があり、また複雑で高密な都市空間には、地中海全体に通じるアラブの影響を感じることができます。プーリアの主要な町の一つレッチェ、この町の中には古代ローマ時代の歴史を物語る円形闘技場跡や、古い石畳が現在も残されています。

 アドリア海の港町モノーポリ、オートラント、イオニア海に面するガッリーポリなど、港町の旧市街を歩くと、石造りの建物は隣や背後の家と壁を共有し、細い街路は迷路のように張り巡らされ、都市空間と建築が一体となった面白さがあります。これらの港町は、オリーブオイル(当時は灯火用)の積み出しで栄えた町で、建物の地下にフラントーイオというオリーブオイル搾油所が今でも残っています。フラントーイオには大きな石臼があり、当時はロバが日がな一日石臼を回していました。レストランで出された美味しいハム、今では高級食材となったロバの肉で、昔も今もロバにとっては災難です。

 丘の上に白く輝く美しい町、オストゥーニ、ロコロトンド、チステルニーノ、チェリエ・メサッピカ、マルティナ・フランカ。「プーリアの真珠」と呼ばれるこの五つの町に囲まれた田園地帯はなだらかな起伏の中、見渡す限りのオリーブ畑が広がります。建物は石灰で白く塗られ、濃い青空と素晴らしいコントラストを見せてくれます。広大な農地の中に建つマッセリアと呼ばれる大きな建物は、元は農園を経営する貴族の館。現在は改装されてホテルやレストランとして使われています。

 プーリアの建物の特徴は石造りです。ヴォールトというアーチ状の天井も石を積み上げたもので、現在もレストランや店舗に改装され、その美しい曲線がインテリアとして活かされています。またアルベロベッロのトゥルッリは、壁から屋根まで石を積み上げてつくられた、とんがり屋根と白い壁が美しい建物です。その町並みはおとぎの国を思わせます。岩山を刳りぬいてつくられたのは、マテーラのサッシと呼ばれる洞窟住戸。洞窟の前にさらに建物を作り足し、急峻な斜面に重なりあい、広がる様は壮観です。因み今秋公開予定の「007」シリーズ最新作「NO TIME TO DIE」は、ここマテーラが舞台です。

壮大なロマネスク様式、バロック様式の寺院建築を見学するのも大切ですが、その土地の過去から現在までの人の営み、気候風土を活かした家並み、町の変遷を学ぶことをこれからも続けるつもりです。

*7月から始まった「顧問リレーエッセイ」は今回の佐藤勇一さんが最終回となります。各期を代表する顧問の方々の様々なご体験やご活動は、今年の苦難な状況にあって私たちに新たな視点を与えていただけたものと思います。この企画にご協力いただいた1期から10期までの顧問の皆様にはこの場をお借りして深く御礼申し上げます。ありがとうございました。(RSSC同窓会広報委員会一同)