ウィメンズクラブ7月定例研究会

1 日 時:2018年7月6日(金)13時半~15時半

2 場 所:セントポールズ会館「すずかけ」

3 参加者:10名

4 話題提供:小杉弘江

シルクロードに魅せられて~洋画家・入江一子

 7月の研究会では、今話題の洋画家・入江一子(102歳)さんを取り上げた。大正から昭和の激動の時代に何よりも絵を第一義に考え生きてこられた百寿者入江さん、DVDも視聴しながらその生き方・色彩世界に触れ、先達に感じたそれぞれの思いなど話し合った。

杉並のJR阿佐ヶ谷駅から徒歩6分、自宅とアトリエを兼ねた小さな個人美術館「入江一子シルクロード記念館」がある。館内に一歩足を踏み入れるとライフワークであるシルクロードを題材とした色彩豊かな200号の絵画や民俗工芸品などが所狭しと展示されていて、圧倒される。

7月2日(月)に記念館で小さな公開講演会があり個人的に参加したが、シルバーカーを押しながら現れた入江さんは素敵な色合いの衣装と小物を身につけ、とてもチャーミングであった。冒頭館長さんから「今日は体調が優れないのですが、話し始めると元気になり、記憶も素晴しく明快なので、何を質問しても大丈夫です!」と説明があった。

 大正5年裕福な貿易商の長女として韓国大邱(テグ)に生れ、何より絵が大好き、目の前にりんごがあっても、鯛があっても必ずその絵を描いてからでないと手をつけないとか、「1枚絵を描いてきなさい」という小学校の夏休みの宿題も毎日描いて40枚提出したとか、絵の話になると声の調子も一段と高く本当に明快であった。

昭和11年(20歳)女子美術専門学校(現・女子美術大学)登校中、二・二六事件の銃声音を聞いた話、また昭和20年(29歳)1月、戦争の激化によりどうせ死ぬなら東京で一人より、母や妹と一緒にとやっとの思いで大邱(テグ)に帰ったが、8月、終戦。大邱の家を残し、闇舟で日本に帰国(博多)し父の郷里山口県萩に暮らしたことなど、当時を思い起こしたのでしょうか、時折言葉に詰まりながらもしっかりお話くださった。学校卒業後は東京の丸善図案部に就職、戦後は島根県・益田で中学校の美術教員,その後上京してからも長く武蔵野市の小学校で美術を教えながら、大好きな絵を描き続けたとのこと。

シルクロードのスケッチを始めたのは昭和44年(53歳)の時、以後30数ヶ国を訪問、平成12年(84歳)のモンゴル取材が最後のスケッチ旅行となった。その年11月に自宅を改装して、「入江一子シルクロード記念館」をオープンする。昭和16年(25歳)の満州のハルピン、チチハル、大邱での個展を皮切りに日本各地で個展を開催していたが、93歳の時のニューヨークでの個展が人気を呼び、その後上野の森美術館での100歳記念展(大盛況)、NHK「日曜美術館」でも紹介されたりと、今や最高齢の画家として“時の人”となっている。創作意欲に溢れている入江さんは「最近ようやく絵のことが分かり始めた気がする」とのことである。

<参考図書>2017年10月に出版された『101歳の教科書 シルクロードに魅せられて 洋画家・入江一子』((㈱生活の友社)の表紙裏に「やれないことなどありません。大切なのは勇気と決断です」と入江さんの思いが記されている。「生きていくことは絵を描くこと」、なぜそれほどまでにシルクロードに魅せられたのか・・・一つは娘時代を過ごした大邱、チチハル、ハルピンへの郷愁、そしてその土地に暮らす人が守り続けてきた文化や素朴な美しさの魅力の虜になってしまったこと、もう一つは個展の巡回中に見たチチハルを流れる嫩江(ノンコウ)の赤い夕日、一木一草も無い平原の中の真紅な川面の風景、自然の雄大さとこの赤い夕日を追い求めることがシルクロードの原点となったようだ。

<参考DVD> DVDビデオ&ブックレット 『歩み続けるひとびと[気と骨]スペシャル 入江一子さん』(一般社団法人倫理研究所)

①戦争引き上げ体験 物質は一瞬にして無になる。“生きる力と健康が一番大切”②日本人同士の方が垣根を作ります。感動は人種も国境超えて共有できるものです。③目標があるから気力が湧く。「百歳の関所」を越えて描き続けて、必ず展覧会を開きます。等々、色彩豊かな絵画と共に珠玉の言葉が随所に見られる。

<絵を描くに当たって編み出した独自の手法>現地では10号のスケッチブックを20号にして描き、描いている時の周辺の音をカセットテープで録音、帰国後その音を再現し現地の臨場感を出しながらキャンバスに向かう。現地に吹く風、光、喧騒などを再度感じながら描く。

<現在の入江さん>毎月健康雑誌『壮快』への季節の絵、毎年女流画家協会展、独立美術協会展への出品作品200号を2枚、他に注文を受けた洋画など中心に描いておられる。大作の時は踏み台に上って描くため、一度ひっくり返ってしまい、最近は少し不安に思われているとか。1時間描いては寝て、また起きて描くという繰り返しを24時間続けている。食事も以前はご自分で作られていたが、今はスタッフの支援も受けている。お肉が大好きで、タイ料理、中華料理なども唐辛子をたっぷり掛けて召し上がるそうです!

<入江さんの最近のコメント>今年2月『広報すぎなみ』に入江さんの特集記事が組まれたが、その中で「年をとった今は、周囲に迷惑を掛けないようにと気力で頑張っています。甘えるのが当たり前になるのが嫌なんです。寝たきりの生活になってしまいそうで。いつかは死ぬわけですが、最後まで元気に過ごしてそのときが来たらバタンと死にたいと思っています」

<会員の感想>①今日は入江さんの色彩を真似て、せめてもと似た雰囲気の服を着て参加した。②100歳を超えてなお絵画と向き合う姿に、圧倒された。③入江さんを思うと、70歳代で疲れたなんて言っていられないわね!④まだシルクロードへの旅が自由に出来ない時代に、30数年行き続けたことにビックリ!⑤断捨離、終活なんてとんでもない、まだまだ挑戦しましょう!⑥平山郁夫さんの描いた端正なシルクロード、堀文子さんが描いた美しい青いケシ、それぞれに素晴しい作品であると思われるが、入江ワールドには、同様な題材でも鮮烈な色彩が多くバザールの賑わいや歌声が聞こえてくるようで何だかとっても楽しい気分になる。⑦「絵を描きたいという目標があるから気力が湧く」と入江さん、やはり幾つになっても目標を持つことは大事ね。元気をいただいた。

入江さんのモットー「人に良い事をすれば、必ず自分に返ってくる」さすが百寿者の示唆に富んだ言葉、私もこれから毎日一つだけでも良い事をしていこうとこっそり思った研究会でした。

                               (記:小杉)