セカンドセルフ

 友情は、利害とは無関係であり、「愛の報酬」を取り立てることではない。友人を見つめることは、むしろ自分を見つめることである。だから、友人とは「第二の自己」である。そう述べたのは、ローマの哲人キケロでした。彼はアリストテレスが『ニコマコス倫理学』のなかで論じた友情論に学びつつ、老ラエリウスの口を借りて『友情について』という書物を残しています。前45年、政治的理由で暗殺される一年前のことでした。

 4年前から、立教セカンドステージ大学の教壇に立たせていただき、ときどきこの「第二の自己」という言葉を想い起こします。授業では、旧約聖書を人類の古典として紹介していますが、その旧約聖書のコヘレトの言葉に「第二の者」という単語が「友人」という意味で用いられているからです。「空の空、空の空、いっさいは空である」と繰り返すコヘレトにとっても、友情だけは空しくなかったのです。

 立教セカンドステージ大学に集う方々も、互いに学びなおし合うなかで、それぞれに「第二の自己」を見出しておられるのではないでしょうか。「第二の自己」を英語で言えば、セカンドステージ(second stage)ならぬ、セカンドセルフ(second self)です。

立教大学名誉教授
月本昭男