「世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」

と在原業平は『伊勢物語』の中で詠んだ。毎年桜の時期になると業平でなくとも今年はどこで観ようかとざわざわしてくる。

そんな桜に惹かれて今年は東北三大桜の一つとして名高い角館の桜を見に出かけた。角館の桜には見どころが二つある。一つは武家屋敷街のシダレザクラ(下左写真)である。1770年頃に国学者の益田滄州なる人物が友人の屋敷を度々訪れ目にした、庭園にあるシダレザクラの巨樹について記した記録があり、その時すでに100年は立っているとされている。シダレザクラの寿命は長く300年以上とされているから、いま目にするのは江戸時代初期からのものといえるだろう。もう一つは町の中心部を流れる桧木内川堤に咲き誇るソメイヨシノ(右下写真)。およそ400本全長2キロにおよぶ桜のトンネルである。昭和9年(1934年)に今の上皇陛下のご誕生を記念して植えられたのが始まりとのことである。

角館の観桜旅は昨年の秋から早々と計画をし、まず宿を確保した。自然相手なので難しいのが時期である。例年の開花時期や、近年の暖冬傾向を考えて4月15日、16日に設定した。外れたら諦めるしかない。ということでその日を待った。とはいえ、テレビで開花予想が出ると秋田はいつ頃だ。よーし!予想の範囲内だなどと一喜一憂した。今年は3月中旬までは全国的に開花が早いという予想だった。しかしその後開花がずるずると遅れ、角館の開花予想も私が訪れる日はようやく開花というところだった。ところが、4月11日から角館は一気に気温が上がりなんと15日、16日はピッタリ満開となったのである。晴れ女を自称する私の相方は「私を誰だと思ってんの!」などと鼻を高くしていたのであった。

いよいよ当日、秋田新幹線「こまち5号」で出発。およそ3時間で角館に到着。天気は晴れ。暖かい。まずは武家屋敷のシダレザクラを観る。満開、見事、咲き誇っている。うーんすごい観光客の数。それも国際色豊か。歩行者ゾーンからはみ出るほどだ。しかし武家屋敷の中は観光客も少なく落ちついて観光ができる。これがツアーでないフリー旅行のいいところだ。『解体新書』の挿絵を描いた小野田直武という武士が角館出身でそれにまつわる展示がされていたり、幕末の珍しい写真が展示されていたり武家屋敷もなかなかみどころがあった。宿は街中の小さなホテルをとった。夕食のレストランに行くと英語が聞こえてくる。外国人の団体が食事中。いぶりがっこなども味わっているのかはわからないが楽しそうにしている。そんな風景をみながら美味しい食事を味わった。

(散歩中の秋田犬)

二日目は桧木内川の桜並木のソメイヨシノのトンネルの中を歩く。普通ソメイヨシノの満開はシダレザクラより遅いのだが、何たる幸運。こちらも満開。しかも朝早いので観光客の姿もまばらである。桜並木の中間ぐらいに橋がありそこから眺めると、緩やかにカーブを描く桜並木の全貌を目にすることができる。こんなのは観たことない。圧巻である。橋で記念撮影をしていると通りかかる地元の自動車が写真を撮り終わるのを待っていてくれる。地元の資源が何なのかよくわかっているようでその心遣いに感謝である。時間がたつとツアーバスがどんどんやって来て観光客の数が増える。名残惜しみつつ頃合いをみて桜の名所を後にした。

平安貴族の様に「ひさかたの光のどけき春の日に 静心なく花の散るらむ」(紀友則)と優雅に桜を楽しむことは桜の名所では望むべくもないが、東北三大桜の一つを味わうことができたのはこのうえもないことであった。さて、来年はどこで桜を愛でようか。(7期 高橋豊房)

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