2023年10月29日、東北の秋というのには暖かすぎる角館駅に加藤先生と加藤ゼミのメンバー7人が集合した。「旧き町並みをたずねる」シリーズ第5回目は首都圏を飛び出し、秋田県の角館武家屋敷通りをたずねた。
角館の城下町は1620年芦名義勝により町づくりが始まり、1656年佐竹北家が角館所預りとなり明治の廃藩まで十一代約200年にわたりこの地を支配した。佐竹北家の統治により角館の町は栄え、秋田仙北郡の政治、経済の中心地となったという。今に残る角館武家屋敷通りは、道のかたち、屋敷割りなどが昔と殆ど変わることなく現在までその姿を伝えている。昭和51年に文化庁による重要伝統的建造物群保存地区に選定され、周辺環境と建造物が一体となり、歴史的景観が守られている。
南北をつらぬく通りは幅が約六間と広く、途中に枡形も配置されここが武士の町であったことが伺われる。通りの両側には黒板塀が長く続き、樹齢200年余と云われるしだれ桜の大木が通りの中程まで枝を伸ばしている。重厚な構えの薬医門をくぐればそこは上級武士の武家屋敷。格式の高い玄関を持つ母屋から始まり、武器蔵、道具蔵などいくつもの建物と庭園が広大な敷地の中に配されている。季節はちょうど紅葉の時期となり、黒板塀と白壁の蔵に黄色や赤に染まった樹々の葉が彩りを添えていた。
翌日は秋田県出身のゼミメンバーの提案もあり、乳頭温泉郷を訪ねた。山奥の秘湯である。バスに揺られ山道を登るにつれ、山々の紅葉は鮮やかさを増し、文字どおり錦織りなす山の景色を観ることができた。温泉は露天風呂。白濁の湯につかり、湯煙の向こうに秋の山々を眺め、旅の疲れ、日々の疲れを癒やすことができたことと思う。
折しも今年の秋田県は熊の出没件数が全国一といわれ、宿の人達からも早朝と夕方から夜にかけての外歩きは危険な為止めるようにとの忠告を受けた。熊対策と言えば山はもちろんのこと、角館の町中でも熊除けの鈴の音があちらこちらから聞こえてきて、熊との遭遇が身近に起こりうることが感じられた。
300年余り前、武家屋敷通りを歩いたであろう武士達に思いを馳せ、山奥の湯につかり都会の喧噪を忘れ、熊との遭遇に少しばかり怖い思いをした東北の旅となった。
加藤ゼミ 佐藤勇一