今から10数年前、早稲田大学オープンカレッジで団塊世代を対象にした講座があった。
定年後の生き方を検証し、主体的に関わっていく具体的な場としてNPOや起業を考える講座で、著名な作家や評論家に混じって、企業を退職後レストランやネットカフェを開業した人々の体験談を聞くことができた。それと並行して社会人学習サークル団体「ワセダカルチェラタン」の活動に加わり、現在は会員の1人である大手旅行会社OBの方が独立して作った会社主催の各種行事に参加している。具体的には春・秋の2泊3日の旅行・味噌造り・暑気払い・忘年会・正月の七福神巡り・カラオケ等20人近い会員と楽しんでいる。

春の旅行の目的はお花見で、日本三大桜と言われる三春滝桜・山高神代桜・根尾谷淡墨桜は満開を見ることができたが、信州伊那市の高遠城址公園の桜は例年より1週間早く満開を迎え、葉桜を見る羽目になった。数か月前から予約しているせいか公園には次々と観光バスが到着し、たくさんの人々が城址公園内を歩いているがお目当ての桜はどこにもない。顔を合わせると皆きまり悪そうにしていたのが印象に残っている。

例年になく暑かった今夏の暑気払いは8月31日に迎賓館・東京タワー・増上寺を巡るコースで、迎賓館では「花鳥の間」が際立つ。公式晩餐会が催されるこの部屋の壁面に飾られた30枚の楕円形の七宝には日本画家の渡辺省亭が下絵を描き、七宝職人の濤川惣助が焼いた四季の草花や鳥が描かれ、フランス人画家による36枚の天井画の花鳥とのコントラストが見る者を引き付ける。

徳川二代将軍秀忠を始め6人の将軍が埋葬されている芝増上寺は第二次世界大戦の空襲によって伽藍の多くを失うが、昭和49年の大殿再建を皮切りに復興を果たしている。目を引くのは十四代将軍家茂と正室静寛院和宮の宝塔が並んで建てられており、形は同じでも夫の石塔に対し妻は青銅製である。これは和宮の宝塔は没後の明治に入ってから建てられ、明治天皇の叔母に当たるため天皇の意思が反映されているというお坊さんの説明が興味深い。


この日の昼食は東京タワーの真下に位置する「とうふ屋うかい」。日本庭園を望む広々とした個室でのとうふ会席は非日常の世界へ誘い、都会の喧騒を一時忘れさせてくれる。この店の名物は「あげ田楽」と「豆水とうふ」で、中庭の田楽処で炭火を使って焼き上げた油揚げに秘蔵のタレを絡めた田楽は、香ばしいパリッとした食感が口の中に広がる。厳選された高級大豆を使ったとうふが出汁に浮かぶ「豆水とうふ」は、出汁の旨味がとうふにしみわたっておいしい。一品一品は少量でも、デザートを含めコースを食べ終えると満腹感を覚えるのは日本料理の不思議である。日本人の味覚を知り尽くした料理人が、旬の素材を生かす様々な一品を上手に組み合わせる術を知っているからであろう。今年も暑気払いによって暑い夏に区切りをつけ、明日からの活力を養えたのではないかと思う。(7期生 福島)

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