義父は10月に90歳の誕生日を迎えることができた。大正・昭和・平成へとそして20世紀から21世紀の人生を謳歌している。そんな義父の3人の孫たちとのある日の会話の中で「おじいちゃんがいたから好き嫌いなく食べられることができる。イナゴも食べられるよ!」という内容であった。イナゴにまつわる話はイナゴ取りから始まり、台所の隅にあったイナゴが入った布袋の音や佃煮になるまであった。虫が苦手な私はまだ結婚して日も浅い時に、義母から「イナゴは栄養があるから食べるように」と言われ、「イヤです」と愛想もなく断ったことを思い出し、30代になった孫たちからの話にただ反省するばかりだった。そしていつしか「おじいちゃんの90歳の誕生祝いをしよう!」という内容に変わっていった。特別養護老人ホームや薬局等に勤めている働き盛りの孫たちや、クラブ活動等で忙しい曾孫たちも含めて14人が一緒の時間を過ごすことができたら嬉しいなという想いもあり、義父の誕生祝いの計画が暑い夏から始まることになった。
そこで、義父母に孫の一人が相談すると「昔から長寿の祝いをしてもらうと、すぐに亡くなってしまうと言われているので遠慮したい」との返事があった。「お祝いをした結果、早くに亡くなってしまったら・・・」と悩んでいると、孫たちからの優しい想いを大切にするために「義父の誕生祝いからクリスマス会にする計画」への変更の提案が義父母からあった。例年はリビングに飾られたクリスマスツリーの下でのクリスマス会を、お出かけのクリスマス会にするということであった。「クリスマスケーキは食べられるかしら?」と唐突な質問もあったが、義姉の「ケーキはお正月に食べることにしよう!」の一言で無事解決することになった。曾孫の3人も小学生になり外での食事を楽しめる年齢にもなり、8歳から90歳までの14人で楽しい時間を過ごすことができるクリスマス会へと変わっていった。全員が楽しく過ごすことができ、小学生の3人にも貴重な経験ができたらとの想いから、それぞれがレストランのパンフレットを見て何を食べようか考えたり、私は下見に行ったりするなど当日までのワクワク感は今までとは異なる不思議な高揚感をもたらしてくれた。
12月10日の一足早いクリスマス会は、風邪をこじらせてしまい大きなマスクをした孫のお嫁さんもいたが、普段より少しだけおしゃれをした14人が揃うことができた。クリスマス会(義父の誕生祝い)の主役は、始まると直ぐに義父から「餃子をもっと食べたい、胡麻団子もう1つ食べても良い、やっぱりエビチリが食べたい」等と話す小学校2年生・4年生・6年生の曾孫たちに移ってしまったが、義父母の嬉しそうな顔を見ているだけで私たちも幸せな気持ちで満たされていった。90歳を頂点にした14人は好きな食べ物は違っていても、想いを一つにできる大切な時間として共有することができた。クリスマスプレゼントの交換もあり、小学生の3人は満面の笑みで包まれていた。そろそろ会もお開きの時に、義父から「今日はありがとう」の感謝の言葉とともに義母との結婚から始まり、息子2人を苦労しながら育て上げた話があった。義母や息子たちはちょっといつもの話かなと思いながらいると、孫夫婦や曾孫たちが義父の目を見ながら真剣に聞いている姿があり、家族の中で暮らす大切さを考えさせられた。
クリスマスは、イエス・キリストがすべての人と人を一つにするためにこの世に来られたことや人々の間に愛を宿らせたことを祝い記念する日であることも知らないが、「クリスマス」という言葉で義父の誕生祝いが実現できたこと、心がいつもより温かくなったことに感謝することができた。そして「お正月は14人みんなで実家である義父母の家で会おう!」との言葉と共に、それぞれの家路に向かった。(7期:金子)
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