5月になると思い出す。人事異動で埼玉県の東部地区にある女子高校に勤務を命ぜられた年のことである。その年は1月から3月にかけて、関東でも大雪に見舞われていたためか、春を彩る花が咲きだすのが遅れていた。校舎や教室の配置を確認しながら学校中を巡っていた時に、「思いのまま(源平桃)」という桃の花が咲きほころんでいるのを見つけた。桃の花を見ていたら、新しい学校に慣れない私に「頑張れ!」と励ましてくれているようで、元気をもらい、気持ちが楽になってきた。
いざ授業が始まると、生徒たちからの質問も沢山あり教材研究も楽しく、あっという間にゴールデンウイークになった。授業は2年生の「家庭一般」と3年生の「食物」を担当していたので、少しだが気持ちに余裕もあったのかもしれない。しかし気になることが一つあった。それは1年生の「家庭一般」の授業内容である。先輩の先生に質問すると、被服実習は「制服のスカート」と教えてくれた。私は普段用のスカート製作の経験はあるが、「制服」製作の経験はなかった。「制服」という言葉に過敏に反応してしまった。さらに「これが伝統」と軽く先輩の先生に言われ、本当に3年間着用する制服のスカート製作を指導できるのか、経験の浅い私は不安と焦りで心身ともに固まっていくのがわかった。
思い出したくない5月が過ぎると、今は2年生と3年生の教材研究をしっかりとして、次年度に備える大事な時期だと考えを改めることにした。先輩の先生方にお願いして、放課後は時間内に出来上がらない生徒が被服実習室にスカート製作に来るので、その指導を手伝わせてもらうことにした。今なら先輩の先生方に甘えることができる。手伝いをしながら、被服実習のポイントを教えてもらおう!私が苦手とするところと同じかもしれないが、生徒たちから難しいと感じるところや苦手とする部分を教えてもらおう!心の中でいつも「ありがとう」と言いながら、自分の被服実習に対する経験値を高める努力をした。
そして、異動して3年目に制服のスカート製作を教える機会をもらった。採寸・型紙作成・地直し・裁断・しるしつけ・仮縫い・試着・補正・本縫い・仕上げの工程を経て完成する。どれ一つとっても間違いは許されないが、裁断の時には特に気をつけた。布を間違って切ったら取り返しがつかないので注意を要した。被服製作が苦手な生徒もいたが、少しずつスカートらしい形になってくると、頑張る生徒が多くなってくる。
そして5月後半から6月にかけては被服室のミシンがフル活動の時期になると、被服室から出る糸くずが校舎のあちこちにみられるようになってくる。他教科の先生からは「始まったね!糸くずが1学期の象徴」と声をかけられ、「生徒は出来上がりを楽しみにしているから」と私を励ましてくれた。終業式には自分で作ったスカートを着用したいという生徒たちの思いに私が励まされ、初めての「制服のスカート」製作の指導が無事に終了することができた。(7期生 金子)
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