木々の緑は一層色濃く、川面は澄み、夏色を映す季節となりました。変異ウィルス、デルタ株、ワクチン接種、東京オリンピック開催、様々に変化する日常に思いの外ストレスを感じ、随分我慢もしてきたように思います。変わりゆく日常の中で、変わらないものを求める気持ちがより強くなっているように思うこの頃です。

江戸川橋から飯田橋へ向かう神田川沿いの橋のたもとに、小さな店があります。創業天保6年、1835年よりこの地にあり180年の味を守る鰻屋。店の前を通ると、午前中から芳ばしい香り、煙が立ち上っています。小さな格子戸から備長炭で焼く鰻の香りが神田川の風にのり、昔ながらの風情を引き立てています。

天保と言うと江戸後期、天保の飢饉がおさまり「江戸前」ブランド化に成功した、寿司、天ぷら、蕎麦、鰻、等の食文化が江戸の町に広まったと言われています。また、土用の丑の日に鰻を食べる習慣は、平賀源内発案説が有名です。平賀源内が、とある鰻屋から商売繁盛を相談されて「本日土用の丑の日」と書いて店に貼り出させたところ、千客万来したと言います。江戸の町民文化が最も栄えた文化文政期には、土用の丑の日に江戸っ子が競って蒲焼きを食べている様子がみてとれた、ということです。

1835年創業以来、東京大空襲などの大事を乗り越え、いつの時代も同じ場所で江戸の味を今日まで守っている鰻屋、店の案内には「感謝」とあります。この味に30年余りずっと親しんできました。幼かった子供達が風邪をひくと、「予後に元気が出るから」と私たちを連れていく吉岡の母の言葉が懐かしく思い出されます。

「ちょっと食べたくなったね」と言っては家族で、「暫くぶりに」と言っては親戚で、つかず離れずの頃合いでいつも側にある大切な味。我が家の大好物の逸品です。
辛口でも甘口でもないタレ、江戸前のふっくらした焼き方に舌鼓を打ちます。幼い孫たちが増え、コロナの影響もあり店に行くのを遠慮する昨今、大きな風呂敷包みに熱々の肝吸いを添えて届く「出前」の楽しみも増えました。
江戸庶民の味、と言われても、ちょっとした贅沢。

さて、今年も土用の丑の日が近づいてきました。
「おかあさん、ボーナス出たので、鰻で良いですか?」
と娘婿の俊ちゃん。
「鰻がいい!」と代わりに答える娘。笑顔が弾けます。

変わらない味は、今も我が家の大切な元気の源となっています。ちなみにこの鰻屋、土用の丑の日は、鰻の供養とかで毎年定休日。守りゆく味と共に守りゆく心意気もあるようです。
(7期生 吉岡)

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