「闇の中に輝く光」に思う事 

 お金を持っている人だけが優先的に宿泊施設を確保でき、快適に過ごす事を保証され、親戚や仲間とご会食。貧しければ命に関わる緊急事態であっても、宿の確保もできず野宿を強いられる。これは約2000年前のルカ福音書が描く救い主誕生の話です。しかし、この聖書の物語は今の私たち自身です。聖書は、COVID-19の中を生きる私たちとこの社会を炙り出します。
 救い主の誕生は、人間に使われる動物たちが自分の場を空けてくれて出来た、家畜小屋の中の小さな場所で実現します。宿泊できた人たちは、出産間近で困惑する夫婦に誰一人自分の場所を譲ろうとしませんでした。救い主は、自分の事しか考えない人たちからは締め出されました。しかし、権力の圧力一つで潰される庶民と動物たちの小さな共感と善意が、救い主赤ちゃんイエスの命と母マリアの命を支え、守ります。
 『ペスト』の中でカミュは、ペストを体を蝕む病気として描きつつ、むしろ心を蝕むものの象徴として、戦争、貧困、全体主義、弾圧や抑圧、暴力、不正、災禍、苦痛や死、孤独、悲惨、不安、差別、挫折や絶望など、あらゆる生きる力を喪失させるものを不条理として表現しました。作品の中で、ペストと戦う人物たちに共通してあるのは、犠牲者の側に立って考える「共感」の発想です。
 昨年12月に殺害された中村哲ドクターやカミュが描こうとした事やイエス・キリストに共通する事はいずれも、最も痛み苦しんでいる人の立場から考える事が揺るがない、という点です。対立と分断が進み、寛容さを失った私たちの社会が今忘れ去っているこの発想からこそ、愛と平和と正義と自由が生み出される事を、飼い葉桶という最も「非人間的場」に寝かされた救い主の御降誕は、教えてくれているように思います。私たちに「共感」の心を取り戻すようにと。

新井美穂(「聖書と私」担当)