箕口雅博先生からのご寄稿

RSSC同窓会寄稿

箕口雅博

 私は、2015年度から「アドラー心理学を学び、実践に活かす」というタイトルの講義を担当しています。アドラー心理学は、オーストリアの精神科医であるアルフレッド・アドラー(1870-1937)が創始した人間理解と援助のための心理学であり、彼の人間に対するとらえ方や実践思想は、現代心理学(実存心理学、人間性心理学、認知行動療法、コミュニティ心理学など)を先取りするかたちで多大な影響を与えています。また、カーネギー『人を動かす』、コビィ『7つの習慣』、日本でベストセラーになった『嫌われる勇気』に代表される自己啓発の源流ともいわれています。
 アドラー心理学は、①個人の主体性を重んじていること、②原因にこだわらず未来について考えていく解決志向であること、③人と人とのつながりと協力関係(共同体感覚)を大切にしていること、などの特徴から多様な対人支援場面だけでなく、日常の人間関係、育児や教育の場面にも活かせる実践的な心理学だと考えています。
 私は、「アドラー心理学をどう活かせるか」に焦点をあてた講義を目指してきましたが、時間的にも不十分なところもありました。そこで、「アドラー心理学の学びをさらに深めたい」という11期、12期の皆さんを中心に、8期の青木さんにコーディネーターを務めていただき、2年前から定期的に自主勉強会を開催してきました。そして、昨年2月からは、LINEグループ「アドラー会」を立ち上げ、勉強会の開催や情報・意見交換の場として活用してきました。
 ところで、このコロナ禍のもとで、私たちのライフスタイルも大きく変わらざるを得ない状況に置かれています。しかもこの状態がいつまで続くのか出口も見えないなか、分断と偏見という危機を乗り越えるために、私たちは「離れてつながる」最適な方法に取り組むことが求められています。「離れてつながる」というイメージは、アドラー心理学の中核概念である「共同体感覚の育成」というイメージに連結していると考えています。
 「離れてつながる」試みのひとつとして、私たちは、アドラー会をはじめとするLINEグループを介した情報発信・共有を行ってきました。また、12期の五十嵐さんの呼びかけで始まり、8期の青木さん、12期の福田さんと定期的に行っている「リモート実験室」では、「離れてつながる」ことを積極的に意味づけ、「リモートで出来ること」を探っています。その成果として、6月には、アドラー会の皆さんとZoomによるオンライン勉強会(テーマ:コロナ禍と共同体感覚)を開催したり、7月からは定期的に「つながろうカフェ」を開店しています。
 コロナ禍のなかで私たちの「離れてつながる」試みは少しづつではありますが、着実に動き始めています。たくさんの皆さまのコミットメントをお待ち申し上げています。