縁あって月一回、環境NPOで企業対象の環境関連講座を手伝っている。そこで記憶に残る話に出会った。ひとつは、「生態系と生物多様性の経済学/TEEB(ティーブ):The Economics of Ecosystem and Biodiversity」である。TEEBは「環境は大切にしよう!」と言った説得的な手段ではなく、生態系と生物多様性の価値を具体的な数値で示し、環境意識を高めることを目指している。

もし、蜜蜂がいなくなると人間はどれほどの損害を被るのだろうか?環境省のTEEB資料によると2005年1年間に蜜蜂など昆虫が農産物の受粉を行ったことによる経済効果は1,530億ユーロ(1ユーロ=120円とすれば、18.4兆円)であり、同年に人間が食糧生産した農産物の9.5%が昆虫による受粉の恩恵をうけている。同様に、もしサンゴ礁がなくなると、沿岸の海水魚が減少し、沿岸部や島嶼で生活する人々の便益が最大年19兆円減少する。このように数字で示されると実に分かりやすい。そして、受粉を行う蜜蜂、海水魚を育むサンゴ礁はだれのものでもない。

自然環境だけではなく言葉・文化・知識・芸術・モラル、更には21世紀の象徴的人工物であるインターネットも誰のものでもない。我々の周りには誰のものでもない大切な財産(ここでは仮に「コモンズ資産」と呼ぶ)が数多くあり、生活の相当部分はコモンズ資産に支えられている。

「所有者のいないコモンズ資産を、破壊や強欲な占有からどのように守るのか」と考えているときに、ふたつめの話を聞いた。倫理的消費(エシカル消費)やフェアトレードの定着に関するシンポジウムの中で、長く林業を担ってきた方が次のような発言をされた。
­「大人はなかなか変われない」
­「子供たちへの適切な教育。そうすれば、子供たちは10年後、20才の賢い市民になる」
­「林業をやっていると10年なんてあっという間だ」
「林業者から見ると、教育ほど確実な環境保護への即効薬はない」。
確かに10年後はすぐに来る。子供たちへの教育に投資した方が、大人が制度や法律を作り利益調整するよりも早いかもしれない (と同時に教育の難しさや怖さも感じた)。

話は飛躍するが、2015年にすべて国連加盟国が全会一致で採択した「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」では、2030年までに貧困・飢餓・教育・ジェンダー・気候変動など17のゴール(=SDGs)達成を目指している。2030 アジェンダの内容は、蜜蜂やサンゴ礁の価値、倫理的消費やフェアトレード、コモンズ資産、現在開催されているCOP25と強く結びついている。そして2030年なら、まだ生きているかもしれない。

既に文科省でも小学校から大学までの教育現場にSDGs事例を紹介し、積極的な取り組みを行っているようだ。SDGsの学習が浸透すれば若者・子供たちの行動は確実に変っていくだろう。私も漸くNPO講座の参加者や学生諸子と議論し応援できるように、SDGsのeラーニングを修了したところである。あと10年、2030アジェンダの精神と行動を大切して行きたいと考えている。(7期 杉村)

【追記】国連2030 アジェンダ(←click)は相当長いので、前文・12頁の”行動の呼びかけ”・14頁の17の目標(=SDGs)を読んで戴ければ、と思います。特に、前文にある「誰一人取り残さない(No one will be left behind)」と「5つのP」(人間・地球・繁栄・平和・パートナーシップ)は、21世紀の人間と地球の行動理念ではないでしょうか。

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