父の遺品の財布の中から一枚のセピア色の写真が見つかった。それは私が初めて歩いた日に撮った写真であった。父はその写真を「肌身離さず持っていた」と母から聞いた。
涙がこぼれた。

父は70歳過ぎまで仕事一筋の仕事人間で、厳格で頑固、実直で真面目な人だった。
「素直に、正直者でありなさい」と常日頃から言われ、兄弟喧嘩した時等の言い訳に、ほんの小さな嘘をついた時には、大層怒られた。
特に長女である私には厳しく、思春期の頃には父と距離を置いていた時期があった。
相談事や日々の出来事の報告等は、いつも、父とは正反対の包容力のある優しい母にしていた。
だが孫(私の息子)が生まれてからは、とても可愛がってくれた。自分の子供には厳しい父親だったので、意外な一面を見た。

父は松下幸之助をこよなく愛し、尊敬していた。何度も聞かされた言葉がある。
「人には与えられた道がある。他の人には進めない、自分だけしか歩めないかけがえのない道。今、歩んでいる道を休まず歩むことである。道を開く為には、まず歩まねばならない。休まず歩めば必ず新たな道が開けてくる。そして、深い喜びが生まれる。」
これは松下幸之助の言葉であり、父が常に心に刻んでいた言葉であった。若い頃、苦労したという父は、松下幸之助の人生に自分を重ね合わせていたのかもしれません。

「人間の幸せは自分の運命を生かすことである」という言葉も今なら私も理解出来る。
今、ここにいる自分は、色んな人たちとの出会いに恵まれ、本当に幸せな人生だと思えるからである。

そんな父も昨年末、直腸癌で亡くなった。癌を患ってから8年、「その日その日を大事に生きると、一歩一歩の進歩が必ず積み上げられる」という言葉の通り、毎日を精一杯生きる姿を見せてくれた。
最期は、まるで眠っているかのような仏様のような穏やかな顔だった。

「光陰矢の如し」
お父さん、私もこれからの人生を一歩ずつ着実に歩んでいきたいと思いますので、不器用な愛情で見守っていて下さいね。
そして、今までありがとう。(7期生 石川)

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