桜の開花予想がされている最中、約100年振りに紀伊半島南部で新種の早咲きの桜、命名「クマノザクラ」が発見され話題になった。その1ヶ月後に、やっと東北・北海道地方へと桜前線が北上するのだが、札幌では3月末に123年振りに16℃を超えるという日があり、「暑い春の到来」と報道された。雪解けと共に、息吹溢れる木々の新芽や土の香りで春の訪れを感じるが、今年の春はチョット違っていたようだ。
「香り」は人によって好みがあり、その時々の精神状態や健康状態によって変化する。行きつけの美容室では、リラックス効果抜群のアロマオイルが置いてある。10種類位の中から3種類その時期に合わせてスタッフがセレクトしているのだが、 疲れ気味の時は癒しのラベンダー・元気を取り戻したい時にはユーカリプタス・気持ちをリセットしたい時にはペパーミントと(個人的な感想ですが)、香りを纏うことで気持ちが落ち着いて身体は更にリフレッシュできるのです。
ある女優は、新しい舞台が始まる時には香水を購入すると聞いたことがある。物語から感じる薫りを感性によって選択し、香りによって更にイマジネーションを膨らませて役作りに取り組むのだそうだ。香りは時間が経過しても、またその舞台の記憶を呼び起こすツールにもなっているという。
日本の香りは天然香料の香木を扱い、香木をたいてその香りを楽しむ芸事「香道」がある。香道は「高度な心の遊び」の世界と言われているようなのだが、好奇心から半蔵門近くにある香木店へ訪ねてみた。本店は京都御所近くにあり、3年前に東京へ出店したその店内は、香木をブレンドした高貴な香りに包まれ、店奥の香木箪笥が目を引く落ち着いた場所だ。
事前に香りの体験教室を申込みしていたので、説明を受けながら香りに使われている原木や加工された植物性の香原料(白檀・丁子・桂皮・大茴香・龍脳・山奈・甘松・かっ香)、動物性の香原料(ジャコウ(ジャコウシカ)・龍涎香)を拝見し、香りを「聞かせて」頂いた(香りを「かぐ」のではなく「聞く」という)。香原料は外国からの輸入で、資源保護に輸出規制をしている国も多いだけに貴重のようだ。
天然香料はそれぞれ独特な香りで、料理のスパイスや薬効として解熱・鎮痛効果・健胃剤・防腐剤・防虫効果や殺菌等々あり、多種の香りを「聞いて」いくうちに生薬にも感じ、花粉症で身体機能が少々低下していたが、香りで浄化された錯覚に陥る。何とも落ち着くその香りは、箪笥の中に着物と一緒に忍ばせていた香りにも似て、白檀の香りが際立っていた。
香りの体験は「匂袋作り」もあり、基本となる香原料(8種類)に好みに合わせて調合する。直前は、それぞれの香りが主張し過ぎてなかなか心地良くは感じなかったが、時間の経過と共に香りが融合し変化していった。用意されていた可愛いちりめんの袋に、香原を入れてお持ち帰りできるのも嬉しく、2年間位は自分だけの香りを楽しむことが出来るようだ。
今年の桜は早期の開花で、満開を愛でる機会を逃してしまった方も多いことでしょう。そんな方は、日本の香りをそっと衣服に移し「息吹溢れる季節」に心地よい世界へ漂ってみてはいかがでしょう。
(7期生 梅本)
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