毎年この時期は、新年早々に修論を提出し、「ほっ」としているセカンドステージ大学(RSSC)の本科生、専攻科生の方も多いのではないだろうか。そういう自分も、21世紀社会デザイン研究科の修士論文を先週提出し、内容には多少の不満も残るが、「漸く書き終えた」という達成感を持っている。ちょうど2年前、専攻科の終了時に、「もう2年間、立教でお世話になろう」との軽い気持ちで大学院に進学したのはよかったのだが、修士論文作成には思いのほか苦労した。今回の投稿は、その「論文作成奮闘記」ともいえる。

最初の「壁」は、研究テーマが決まらないことであった。RSSCでも修論は二度書いたのではあるが、それら心理学関連のテーマは、「この研究科でのテーマとしては適当でない」と入学直後に自分で判断し、結局、研究テーマを一から探すこととなった。「社会デザイン(社会をよくする)に関連するもの」「書けそうなもの」「書きたいもの」の三条件を満たすものに焦点を絞る方針を立てた。

方針は決まったが、いざ何を研究テーマにするかはなかなか決まらず、時間だけが経過した。そこで、「もう身近なもので行くしかない」と半分開き直って出した結論が、「30年以上毎日実践している太極拳の効果を客観的に研究・考察する」であった。具体的には、「太極拳を長期間継続することで、身体的効果、社会的効果、精神的効果が期待でき、人生百年時代を生涯健康で自律的に生きる可能性が高められ、その社会的恩恵は大きい」こと(仮説)を検証することとした。

研究テーマが決まった後、次の問題は、先行研究論文調査や現地調査(フィールドワーク)、およびアンケート調査が論文作成には必要とのことであった。さっそく、候補地や候補者の選定に取り掛かったが、ここでも時間的制約の関係で、最終的には、利用していて身近なものである「フィットネスクラブやカルチャーセンターの太極拳レッスンや講座」を観察対象とした。また、「太極拳のまち」宣言をし、マスコミ等でとりあげられていた福島県喜多方市を現地調査の対象とした。アンケート・インタビュー調査は、主に長年通っている太極拳教室や最近一緒に始めたRSSCの仲間にお願いした。身近な人の協力を仰ぐ、「量より質的側面を重視」した戦略である。

以上のように多くの身近な人たちや身近な場所の協力を得て、論文作成を進めることができたといえる。また、論文の中で、目標・理想とする「健康で自律的に生きる高齢者」には、太極拳教室の先輩で6年前に92歳で他界した「Sさん」をイメージした。「Sさん」は長年太極拳を愛好し、毎年のように箱根の合宿にも参加した方で、大変お世話になった人である。亡くなる直前まで合宿にも参加し、普段は90歳を超えた人とは思えぬほど早く歩く人であった。仕事、ゴルフ、ボランティア活動も無理のない範囲で続けていたという。合宿中の休み時間、部屋で独立(ドゥリー)歩(右手足を同時に上げ、左足だけで垂直に立つ)の動作練習を繰り返し黙々とされていた姿が思い出される。高齢になってもなぜそこまで熱心かつ真剣に太極拳を練習するのかと、今となっては直接質問することはできないが、練習自体が楽しくひたすら太極拳に集中し、心理学者M.チクセントミハイがいうところの、“見返りを求めない「フロー(精神的没入・集中)」状態”を経験していたのかもしれない。

以上、今回の論文作成には、多くの方の協力を得て、漸く完成することができたことに大変感謝している。また、「高齢者が、力を用いないゆっくりとした動きの太極拳を、無理なく自分に合った方法で継続的に実践すれば、身体的健康効果のみならず、社会的・精神的効果も期待でき、太極拳は超高齢社会において有効な健康法であるといえる」との結論に到達できたことにも感謝している。今後はこの研究成果をできるだけ正確に、身近な人から伝えられたらと考えている。(7期生 北原)

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