「目以外のなにかで、ものを見たことがありますか?」―こんなキャッチコピーにも興味を惹かれ、8月初旬の雨の降りしきる夕方に、21世紀社会デザイン研究科の10数名の友人らと、「90分間の暗闇の中の対話:ダイアログ・イン・ザ・ダーク」(外苑前会場で開催)を体験した。

1988年にドイツの哲学者アンドレアス・ハイネッケ氏により発案された「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は、これまで世界39か国以上で開催され、800万人を超える人々が体験し、何千人もの視覚障がい者のアテンド、ファシリテーターを雇用してきたとのこと。日本では、1999年11月の初開催以降、東京、大阪を中心に開催され、これまで19万人が体験している(DIDホームページより)。

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」では、参加者は完全に光が遮断された暗闇の中に入り込み、白杖(はくじょう)を頼りに、グループを組んで歩き進み、様々な探検や体験をする。その際、暗闇のスペシャリストともいえる、頼りになる視覚障がい者のアテンドが、親切丁寧に、寄り添った雰囲気でグループをリードしてくれる。ここでは、視覚健常者が支援される側になる。また、参加者はそれぞれあだ名で呼び合い、お互いに助け合いの言葉がけを常に行ない、不安感を和らげる工夫が施されている。草むら(らしきもの)で寝転がったり、カフェで休憩したりする体験もあった。暗闇の中で、グラスにドリンクを注ぐ難しさや、支払いをする際の硬貨や紙幣を数えるもどかしさも体験した。

視覚に頼れないとなると、聴覚や手足の触覚を最大限使用せざるを得ない。鳥のさえずり、水の流れる音、土の匂い、肌に触れる葉の感触など、普段、光の中では忘れかけていた感覚が研ぎ澄まされていく。また、幅の狭い橋(?)を渡る際には、ほんの数メートルであっても踏み外して落ちないように、白杖と他人の手や声を頼りに恐る恐るしゃがみながら前に進む。渡り切った時の安ど感は忘れられない。この時ほど他人の存在がありがたく、近くに感じたことはなかった。暗闇の中では、人は自然と優しくなれるのかもしれない。

今回の体験を通じて、五感の一つが使えないことの不自由さを実際に感じとると同時に、使えないがゆえに他の能力が研ぎ澄まされる、人間の能力の不思議さにも気づかされた。また、人は暗闇の中では共に助け合い、他人に優しくなれることも再認識できた。そうは言っても、今回一番の収穫は、明るくいきいきとグループをリードする視覚障がい者の頼りがいのある姿に感動し、文字通り「視野」を広げる機会を得たことかもしれない。(7期生 北原)

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