とある行きつけの病院の食堂でランチを摂っている時のことである。混んで来たので相席を!と言って私の隣に案内されて座った痩身でか弱そうな色白の女性は、おもむろにメニューを見て「コーンスープとしょうが焼き定食をください」と言った。
私も食欲には相当自信があるが、ここの食堂は、そんな私でもちょっと躊躇するくらいの定食の量である。それに一人前のコーンスープを追加するのはちょっと無謀ではないか!ましてやどう見ても私より食欲はなさそうで、明らかに痩せている。運ばれてきたコーンスープと定食の盆をみて、やっぱりすごい量だな!などと感心していると、隣の女性はその量に驚いたそぶりも見せずに静かにスープを口に運び、一口ごとにナプキンで口を拭いながら楚々と食事にとりかかっていった。
じっと見ているわけにもいかず、私のランチも冷めてしまいそうなので、そ知らぬふりをして時折鋭い視線を投げかけながら自分の野菜タンメンをすすり、食事も終盤に差し掛かった頃合いを見て、ふー!と息を吐くふりをして隣の状況に目を移すと、案の定ほとんど食べていない。いやスープは半分くらい飲んだ形跡があるが、しょうが焼定食の方は付け合せの野菜やトマトなどはそのままで、その横に添えられていた豚肉が数枚姿を消していただけ。別鉢のひじきの煮物や味噌汁には一切手を付けた形跡がない。勿論ライスが中くらいのどんぶりに、それでも最初からいつもより遠慮気味に盛られていたが、それさえも箸で数回つついた跡が見られるだけである。まさかこのまま「ご馳走さま!」なんて言わないよね!?
私は先日来「フードロス」について情報をまとめる機会があり、食物の無駄が今どれほど出ているかを改めて認識することになったが、その数字を見て驚かされたものである。日本で、まだ食べられるのに捨てられている、流通段階及び外食・家庭消費段階から出る、いわゆる食品ロスはおよそ年間632万t。これは全世界が世界中の飢餓に瀕している人々に援助している1年間の食料援助量の約2倍に当たるらしい。さらにこの632万tを1人当たりの食品ロス量に換算すると、日本に住んでいるお年寄りから子供まで全員が毎日お茶碗一杯分(約136g)、もしくはおにぎり1~2個分を捨てている計算となる。京都市によると家族4人で年間6万5000円を捨てていることになるそうだ。
さて、データの提示はこのくらいにして、先程の清楚な女性は果たしてどうしたかというと、残念ながら私の心配は的中したようだ。隣からの執拗な観察に気が付いたかどうかは定かでないが、静かに、しかしながら「もう未練はないは!」と言わんばかりの確固たる自信に満ちたスピード感でさっと立ち上がって出口に向かって歩き出したではないか。後には当たり前のように食べ残されたしょうが焼きの残骸や付け合せのひじき・レタス・トマトたちが、アメリカに入国しようとして隔離され親から引きはがされた難民の子供たちの様に不安げに、白いさらに取り残されていた。その横には、やはり半分残ったコーンスープの皿が静かに寄り添っている。「私たちこれからどうなるの?」という声が聞こえてきそうだ。
これがまさしく632万tの食品ロスの現実なのか。
腹立たしいような悲しいような、複雑な気持ちで隣の席の食べ残しを見つめている私の前には、見事に汁まで飲み干された野菜タンメンの、空になったどんぶりが一つ置かれている。単なるどんぶりだが、なんだか誇らしそうだ!!
野菜タンメンはおいしかったが、妙に疲れて後味の悪いランチになってしまった。皆さん、せめて自分で頼んだ食べ物はきれいに食べましょう!! 食べ残しはいけませんよー!!(7期生 梅原)
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