母と子のある一日

○とある保育園のお迎え風景(夕方)
男の子と女の子がお帰り支度を終えて、園庭の椅子に座り、何やらお互いに紙切れを見せ合いながらはしゃいでいる。
そこに男の子の母親が近づいてくる。
「健一、もう帰るよ」
男の子が女の子の紙切れを得意そうに、母親に見せる。母もその紙を見る。
「わー!すごいね。志保ちゃん(保育園での息子の仲良しのお友達)は自分の名前を漢字で書けるのね!!」
息子「そうだよ、志保ちゃんは頭がいいんだよ! 知ってる?かあちゃん。志保ちゃんの頭の中には鉛筆が入っているんだよ!!」
「へー、そうなんだ。志保ちゃんの頭には鉛筆が入っているの!? だから名前が書けるのね。じゃぁ、健一の頭の中には何が入っているのかな?」
息子「決まってるじゃん!! 石だよ!!」
「ガーン」※声を出さなくてもいい。
困惑した表情。その後、反省したようにうなだれる母。

○母の回想1:
母は自宅のリビングでかぶりのシャツを健一に着せようとしている。シャツの首が小さくてなかなか頭が抜けないで苦労している。
「健は頭でかいからね、シャツなかなか入らないよ~、頭でっかちぃ!」
健一も一生懸命に頭を通そうとシャツを引っ張る。

○母の回想2:
ウルトラマンのフィギアをいっぱい詰めた箱を両手で抱え、ふすまの隙間から顔を出して、頭でふすまを開けようとしている健一。
「健、頑張れ。石頭だから大丈夫!」
母は笑いながら、頭でふすまを開けて近づいてくる息子を見ている。
健一も笑っている。
・・・・・

妻と夫のある一日

○自宅のベッドルーム(朝)
八木克子61が携帯電話で話しながら外出の準備をしている。
克子「そう、超特急で用事済ましちゃうから、あのフレンチ、1時に予約しといて」
会話が終わり携帯電話をベッドに投げて、鼻歌を歌いながら洋服の選別を始める。

○リビングルーム(朝)
くたびれたジャージ姿の八木賢治郎65が自分の湯飲みにお茶を入れている。 茶碗の湯気が朝日に照らされている。
身支度を整えた克子が鼻歌を歌いながら、リビングに入ってくる。
賢治郎「おっ、出かけるのかぁ~」
克子「ちょっとサン吉さんに、お歳暮見てくるわ」
賢治郎がぱっと顔を上げる。退屈していた顔が嬉しそうに崩れる。
賢治郎「デパートか、じゃ、俺も行こう」
バッグを肩に賭けながら、克子の表情が強ばる。
克子「だって、その後で亮子とお昼食べるわよ」
賢治郎「いいよ、俺は一人でラーメンでも食って帰るから」
賢治郎は外出の準備をもう始めている。
立ちつくす克子。

○デパートの歳暮売り場、混雑している。
克子がハムの詰め合わせの前に足早に直行して、注文札に手を伸ばす。
賢治郎がのそのそと近づき、克子の後ろから声をかける。

神大植物では
バラが見頃です。

賢治郎「それちょっと高くないか」
克子は振り向きもせずに、注文札を乱暴に元に戻し、賢治郎を振り払うように早足で歩き出す。
缶ビールのコーナーに歩み寄り、注文札に手を伸ばす克子。
何処からともなく克子の背後に近づき、突然ぬっと顔を近づけてくる賢治郎。
賢治郎「兄貴は最近飲みすぎで医者に注意されているんじゃないか」
克子は驚いて飛びのき、早足で逃げるように歩き出す。
克子の後をついていく賢治郎。

○お歳暮注文カウンターの前
克子が注文手続きの順番を待っている。注文札には「クッキー詰め合わせ」と書いてある。かなり長い行列。賢治郎が近づいてくる。
賢治郎「まだかぁ。時間かかるなぁ」
克子の注文札を握る手に力が入り震えだす。
克子の視線の先で時計が1時を示している。・・・・・

皆さんお大事に。 (7期 山縣)

 

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