「音大に行ってるんだって?」 「はい」
「何やってる(専攻してる)の?」 「声楽です」
「・・・・・・・」
ここで会話が一旦途切れる。70歳を過ぎて音楽のプロになろうと声楽の初歩から「学び」始めた俺(オレ)はやはり「変な奴」なんでしょうね。45年間の仕事から解放され晴れて自由人。ソクラテスもプラトンも自由人だったがゆえに日々の生活には役立ちそうもない「ギリシャ哲学」に勤しみ、やがて知識・学問の基本「リベラルアーツ・自由7科目」に。「自由人になった皆さん、今こそ『学び』を!」と、専攻科ゼミで高橋先生。
そうだよな!自由人としてまだ10年は生きながらえそうだし、石の上にも3年、10年あれば初心者でもプロになれるのでは、と考え始めたが2年前の2月。かつて一緒に仕事をした知人が本科ゼミ・安島先生の親しい大学同窓生とわかり、数十年ぶりに酒を飲んだ席で彼曰く、「俺さあ、今、音大で声楽やってんだ。短大だけど社会人は4年間で規定単位を取れば卒業できるし授業料は40%OFFで4年間の延べ払い、学費が一番安いのが東邦音楽短大。おいでよ、入試はあるけど高校で合唱やってたなら演歌でもいいから何か歌えるだろう、実技試験で1曲歌えばあとは論文と面接だから」。そう言われれば自由7科目に「ムーシケ(音楽:詞、舞踊、等を含む)」があったな、とちょっとその気になり5月の入試説明会に出かけたのですが参加者は私一人。「社会人入試は数回行いますのでチャレンジしてください」と言われ、ダメ元、軽い気持ちで8月末の第1回社会人入試を受験、これも受験者は私一人。にもかかわらず9月中旬に合格通知と入学金振り込用紙が届き、昨年4月には「音大生」になっていた、という次第です。
入学式の翌日、ガイダンスが終ると突然白紙の五線紙が配られ、
「今からソルフェージュ・クラス分けの聴音テストをします」
「え!、聞いてない! 」
「旋律が3問、そのあとで和音を5問弾きますので書き取ってください。では1問目、3回弾きます、1回目」
と言ってピアノがピンポンパン。頭の中が真っ白になって耳も思考も停止した私の隣の席には高校卒業したばかりの同期新入女子学生、彼女もじっと動かず
「なあ~んだ、オレだけじゃなく、みんなわからないんだ」と安心。
「では2回目」
2回目の演奏が終わった直後、彼女のシャープペンが凄い勢いで動き出し、あっという間に8小節が音符で埋まっているではないか!
「はい、最後3回目です」
隣の新入生は自分の書いた楽譜を見ながらピアノに合わせて頭を小刻みに動かし確認している。私は最初の2小節だけいい加減に書いたけれども以降はお手上げ。第2問、第3問はわかるはずもなく、更に和音は完全にギブアップ。お先真っ暗、前途多難、と思いきや、
「たぶん、難しくてできなかったと思います。心配しなくていいですよ」
とピアノを弾いていたイケメン先生の優しいフォローと
「ダメだ!わからなかった」
という同期・社会人新入生のつぶやきに少しだけ救われた初日でした。
その後も基礎力不足の落ちこぼれ劣等生として楽しく悪戦苦闘中ですが、4月には2年生に進級できそうです。声楽レッスン(先生と1対1)の初歩はイタリアの古歌曲から。イタリアの歌はカンツォーネ(民謡)にしてもロマンザ(歌曲)にしても、ほとんどが恋の歌。この投稿がアップされる頃には、
「君が私を見ると、陶酔が私を襲い、君が語りかけると私は死ぬ思いだ」
なんて歌詞の曲を伊藤門下発表会(師事する先生ごとに「xx先生門下」が構成される)で歌っているのですよ、イタリア語で。
「セカンドステージでは、これまでの経験や知識を活かして地域や社会にお返しを」というRSSCでのご指導に反して、学割通学生としてこれからも世に憚り世間様のお世話になりますが、しかし、過去の経験や知識は胸に納めて封印し、年齢に関係なく「坂の上の雲」を追い続けることが社会貢献なんじゃないの!とキャンパスの練習室(ピアノだけが設置されている独房のような小部屋が並んでいる)に籠る昨今であります。(7期生:土谷)
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