結婚して初めて作った弁当は「鶏手羽先チューリップ揚げ弁当」だった。チューリップに見えるように張り切って作った弁当でさえ、私も夫も遠い思い出となりつつある。副菜には卵焼きやサラダが添えられていたのかもしれないが、何を添えたのかは思い出すことができないでいる。ただ、鮮明に思い出すことができるのは空になって戻ってきた弁当箱だけである。
☆結婚した当初はボリューム重視であることが夫から求められていたが、今では魚や煮物が中心の生活習慣病予防を考慮した弁当に変化してきている。もちろん、健康を考えることだけではなく、味や食感そして色味のバランスにも配慮することは大事である。しかし、私は完璧さを求めずに、継続して弁当を作ることだけを考えることにした。無理をせずに昨夜のおかずが詰まっていてもOKとし、作り続けることにした。手抜き弁当の時もあったが、違う職場で食べることによってお互いを思いやることのできる時間を共有することができた。「何から食べ始めたのかな?」とか、「今日のおかずは大好きなものばかり!」などである。考えているだけで、まるで一緒に食べているような気持ちを持つこともできることができ、弁当は不思議な力を持っていた。
そのような二人にも、小さな誤解から些細な喧嘩をした日もあった。その時でも弁当だけは作ることにしていた。もちろん、弁当は私の気持ちを伝えることになるので、栄養学無視の問題満載の弁当であった。しかし、食べることで二人の気まずさも自然と洗い流してくれた。いつしか弁当は私たちに話しかけてくれるようになり、いつものように空になった弁当箱と夫の笑顔が戻ってきてくれた。弁当は私たちの間を結びつけてくれる大きな力を持つようになり、お互いの心の健康管理までしてくれるように成長していった。
☆夫は4月から母校で再び教鞭を執ることになり、私は36年目の弁当作りをすることになった。ゆっくりと二人の人生を歩んでいくために、弁当に助けてもらいながら健康管理を続けていきたいと願っている。 (7期生:金子)
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