日本政府が「緊急事態宣言」を発出したのは、2020年4月7日。日常生活が激変したのは、5年前のことになる。あの頃、出かけられない一日を何をして過ごすのか、いろいろ考えたものだった。知り合いとのやり取りで、動画配信サイトが話題になり「Amazonプライム」がいいだの、「Netflix」がいいだのと情報交換した。あまりに知り合いが動画配信サイトに夢中になり、ドラマを観て夜更かししたことを繰り返し言うで、嫌気がさして、かたくなに動画配信サイトには手をつけなかった。

思い返せば、日本中、猫も杓子も韓流に夢中になった時も、私は韓国映画、韓国TVドラマを観なかった。流行に乗り遅れ、私も今から韓流を追いかけるとは言いにくいし、韓流の新参者になって、みんなに教えを乞うのも面白くない。何にせよ、ブームになるものは大したことはないと考えていたので、観もしないで高をくくっていた

先日、RSSCの「ユリイカ」が企画した『ヴェトナム戦争から半世紀-映画「ディアハンター」をテクストにあの戦争を振り返るー』に参加した。このイベントは開催前に『ディアハンター』を予め観ておくことが望まれていた。『ディアハンター』を観たのは半世紀も前。さすがに記憶に乏しい。地元図書館、立教図書館でDVDを探すも、どこもディアハンターのテーマ曲のCDは所有しているが、映像はない。そこで、ついに動画配信サイトにトライするしかなくなった。

PCで「U-NEXT 31日間無料トライアル」に申し込んだ。見逃した映画、もう一度見たい映画、思い出のTVドラマのタイトルを次々に入れて、検索する。あるある。何でもある。全部、観たくなる。尊敬する知人が韓国映画の『殺人の追憶』を二度も三度も観たと言った。監督は『パラサイト』のポン・ジュノだ。

さっそく、U-NEXTで観た。なるほど知人が繰り返し観るわけが分かった。愕然とする結末にポン・ジュノにしてやられたと思った。こうなると彼の全作品を観たくなる。「ひとりポン・ジュノ祭り」を開催。毎夜、彼の作品を観て、寝不足になった。あれ?これは動画配信と韓流に、はまったってこと?

白状しよう。動画配信はとても便利だ。夜更かしが習慣になると体に悪いけど。韓国映画は面白かった。はまった。どちらも、もっと早く始めればよかったのに、試しもしないで避けていた。これを「食わず嫌い」と言うのではなかったか。「食わず嫌い」のために、今までどれほど、大事なことや楽しいこと、ステキなことを逃していたことだろうかと遅まきながら思う。

子どもの頃、私は食卓の上の料理を一瞥して、食べるものと食べないものを決めていた。用意した母はがっかりしていたことだろう。見た目の姿かたちや色で判断する私を母は諦めることなく、繰り返し叱った。「食べてから決めなさい」と。高齢になると子どもっぽくなったり、童心に戻ったりすると聞く。70歳を超え、幼児に戻ったのだろうか。そうであったとしても、今、直面している私の「食わず嫌い」を叱ってくれる人は、もはやいない。(7期 酒井早苗)

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