< 斎藤秀雄先生、山本直純(ナオズミさん)>
【斎藤秀雄先生】
小澤征爾が名前に先生を付けるのは斎藤先生とカラヤン先生の二人だけ。斎藤秀雄の功績は早期音楽教育の実践と音楽教育に新たなメソッドを確立して世界で活躍する多くの演奏家を育てた。
斎藤は「ドイツ人がフランス音楽をやるとどうしてもドイツ音楽になり、フランス人のドイツ音楽はフランス音楽になる。日本人は西洋人ではない利点を生かして西洋音楽を自由に勉強できる」が持論で、自身が晩学(16歳)で苦労した経験から「子供の持つ柔軟で無限な想像力を伸ばすことが新しい教育」という信念のもと、中学卒業までを一つの目途として「子供のための音楽教室」を始めた。教室では専攻だけでなく全員参加の合奏を重視して合宿も実施、専攻以外の楽器も習わせ後の桐朋オーケストラに発展した。
もう一つは「指揮法教程」の出版、指揮の手を動かす運動を分析して分類したメソッドで、現在でも指揮法の必須教本であり筆者も音大で履修した。斎藤は言語に文法があるように音楽の文法を教えている。楽譜に書かれている作曲者の心を表現するためには正しい解釈が必要であり、それには音楽の文法を学ばなければならない「型には入れ、そして型から出よ」とし、小澤はそれを実践して見せた。スコア(総譜)を何度も読み込み勉強すると「毎回新たな発見や気づきがある」と述べている。
斎藤の指導は非常に厳しいことで知られている。指揮の指導は3人一組で行う。斎藤の自宅で久山恵子が指揮、山本直純、小澤征爾がオーケストラに見立てたピアノ(指揮伴)の日に、山本と小澤が予習をサボり途中でピアノを弾けなくなっていわゆる口三味線でごまかしたら雷が落ち、あまりの剣幕に山本と小澤がはだしで家から飛び出して逃げた。
こうした斎藤の指導を形にしたのが小澤が創立し1992年から毎年松本市で開催される『サイトウ・キネン・フェスティバル松本』、2015年からは『セイジ・オザワ 松本フェスティバル』でありその中核を担う『サイトウ・キネン・オーケストラ』である。小澤征爾音楽塾による若い音楽家プログラムも大きな特色で、小澤がブザンソン音楽祭の審査員だったシャルル・ミュンシュに言われて翌年参加し、N.Y.フィルの副指揮者になるきっかけとなった「タングルウッド音楽祭」(米国)の日本版と言える。ボストンフィルの夏の練習場であるタングルウッドの森に立つと小澤の想いが感じられる。
【山本直純(ナオズミさん)】
小澤が「才能はナオズミさんの方が僕よりずっと上」と言う山本直純は「男はつらいよ」のテーマ音楽の作曲者という紹介がわかりやすい。幼稚園から自由学園に学び、4歳から早期音楽教育クラスに、15歳から斎藤秀雄の「指揮教室」に通う。藝大作曲科に入学、指揮科に転科して渡邊暁雄に師事、学生時代から作曲、編曲、指揮の仕事をし、卒業後は新たに設立された「日本フィルハーモニー交響楽団(日フィル)の常任指揮者でもある渡邉暁雄のカバン持ちも勤めた。
一方、小澤は1962年6月27歳でNHK交響楽団の指揮者に抜擢されたが誇り高き楽員と短大卒後5年の若き指揮者の間に確執が生じ、その年の12月定期公演会場の東京文化会館に小澤一人だけという「N響事件」でN響と訣別。1968年日フィルの首席指揮者に就任した3年後、日フィルに労働組合が結成され組合派と非組合派に分裂、楽員ストで年末恒例の《第九》が中止、楽団解散の危機に追い込まれた。小澤と直純は「音楽はケンカするためにやるもんじゃない」と説得に努めたが両派の溝は深く非組合派の楽員を引き連れて「新日本フィルハーモニー交響楽団(新日フィル)」を設立、以降小澤は新日フィルを「オレのオーケストラ」と言い生涯その育成に努め、直純はテレビ番組「オーケストラがやって来た」の放送で楽団の苦しい財政を支えた。更に二人で佐藤栄作総理大臣に直訴して「日本交響楽振興財団」が発足、新日フィルの財源確保のつもりが全国の交響楽団を支援する財団法人が生まれた。
直純は小澤がパリに出発するとき「お前は世界の頂点を目指せ、俺は日本で音楽の底辺を広げる」と言って送り出した。二人は見事にそれを実践した生涯の友であった。
(7期生 土谷)
<<Kissの会は、RSSC同窓会ホームページへの投稿サークルです>>
【Kissの会 連絡先】 kiss7th.rssc@gmail.com
【投稿履歴/Kissの会 webサイト】 https://kiss7th.jimdo.com
この記事の投稿者
最新の投稿記事
- 会員皆様からの投稿2024年12月21日【Kissの会 ゲスト投稿no.120】「小澤征爾・蓋棺考 その3」
- 会員皆様からの投稿2024年12月11日【Kissの会 第197回投稿】「韓国食べ歩きの旅」
- 会員皆様からの投稿2024年12月1日【Kissの会 ゲスト投稿no.119】「遷ろい行く時に想う」
- 会員皆様からの投稿2024年11月21日【Kissの会 ゲスト投稿no.118】「小澤征爾・蓋棺考 その2」