今からちょうど50年前、私がまだ大学生のころに、アジア人で初めて一躍ハリウッドのスターとなった、甘いマスクの青年がいた。武術家で俳優の「ブルース・リー」である。彼が主役を演じた映画は、当時国を問わず世界各地の若者の間で大人気となり、私も彼の映画が公開されるたびに夢中になって観に行ったものである。その中で、やはり世界的に大ヒットした、『Enter The Dragon(燃えよドラゴン)』が、内容や武術の格闘シーン、そして映像の質の点でも最も優れていた。ブルース・リーの映画はどれも単純で分かりやすく、小柄な青年が、弱者を助け悪役の大男や外国人をカンフー(中国武術)で倒すという、正義の味方の「ヒーロー」が活躍する物語であった。彼の映画に触発され、空手を習い出したり、ヌンチャク(木製の武器)を買って真似たりする若者も、自分を含め少なくなかった。
そんな青春時代の「ヒーロー」の姿が、今年の2月にNHKのテレビ番組『映像の世紀―バタフライエフェクト』で“戻ってきた”。番組では特に彼の残した言葉「Be water, my friend.」に焦点を当て、彼の「生きざま」や「世界に与えた影響」が紹介された。ブルース・リーは、武術家・俳優として有名であったが、実は哲学者としての一面も持っており、幾つもの言葉を残したという。その中の一つ、「友よ、水になれ。」は、老子(道教)や宮本武蔵(五輪書)の影響を受けたともいわれるが、「水は器によって形を変え、手でつかむことも打ち砕くこともできず(自由で柔軟)、低きを求め流れるが(謙虚)、時には破壊的な力を発揮する(秘めたエネルギーを持つ)」ので、彼が追い求める理想の姿であり、武術を極める中から学んだ彼の人生哲学ともいえる。
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香港では2019年に、若者を中心とした民主化運動が盛り上がったが、そのスローガンにこの「Be water」があった。指導者がいなくとも、当局から規制されても、衝突を避けながら、自然発生的にあちらこちらで運動が繰り返されたという。
また、1990年代に起こったボスニア・ヘルツェゴビナの激しい民族紛争が終結した後、2005年11月に、ボスニア南部のモスタルにブルース・リーの銅像が「民族和解の象徴」として建てられたという。1970-80年代のボスニアの若者の中で大人気であったブルース・リーが、異なる民族の共通の「ヒーロー」として選ばれたという。アジアの一武術家が、その死後30年以上経たヨーロッパで再び「ヒーロー」となるとは、32歳で夭逝したブルース・リーは、想像したであろうか。(7期生 北原 )
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