朝、目覚めると階下のダイニングキッチンから笑い声が聞こえてくる。行くと目の前の海に沈めておいた網にタコが入ったという。引き上げて見せてもらうと、タコがもがいている。前日入ったカニを目がけて入ったものだという。ダイニングキッチンからガラス戸一枚隔てた民家なら庭のある場所が海なのだ。その水深2Mくらいの海底が見える場所に毎日網を沈めている。若女将と女性スタッフで朝から盛り上がっていたのはこのタコだった。魚はよく入るそうだが、タコは月一入ればいい貴重な獲物だという。この日は偶然とはいえ、タイミング良く海と密着した日常を見せてもらった瞬間だった。ただ、網を沈めるにも漁業権が必要な、歴とした漁業なのだそうだ。

ここはコロナ過で延び延びになっていたが、昨夏実現した京都の伊根旅で船宿を始めた若女将の宿に連泊した。日本の原風景のような地域で、今でも海際に立つ舟屋が230軒ほどある。東京から東海道新幹線で京都駅へ行き、嵯峨野線、山陰本線、京都タンゴ鉄道と乗り継ぎ天橋立駅へ、そこから路線バスでたっぷり1時間かかった。東京から7時間かかる陸の孤島のような場所でもある。





舟が収納できるようになっている舟屋は、舟が自家用車の役目を担っている。火事やお産、そして急病人も海からの援助ができ、湾内周遊したいと携帯で連絡したら、船が宿に横付けして移動することなく遊覧船に乗り観光することができた。海上タクシーも呼べばすぐに来てくれる便利さである。「津波は来ないのですか?」と問うと、半島と湾中央にある青島が、自然の防波堤の役目を果たし津波被害はないのだという。年間の海面の高低差も80cmしかないのだという。日本海に面していることを忘れ、どこかの湖畔にいるような錯覚に陥る。鎌倉時代に集落ができたというが、長い歴史を守ってきたのは、たぐいまれな地形にあったのだとわかった。海近くで育った私には郷愁すら感じた。

昨年はスポーツ界ではサッカーや野球で明るいニュースはあったもの、ロシアのウクライナへの侵攻、韓国の雑踏事故、北朝鮮の弾道ミサイル、国内でも安倍元首相の銃撃事件と国葬、教団と政治癒着、円安と物価高、知床で観光船沈没など気持ちの安らぐ暇もない荒れた年だった。

前月投稿(1/11)で箱根駅伝の走者の名前(約20年前に誕生した男の子)が掲載されていましたが、昨年生まれた男の子の名前で急浮上して多かったのが「凪」だそうです。コロナ過で平穏とか穏やかといった願いが込められたようです。今年は伊根湾の凪のような穏やかな年になることを切に願うばかりです。(7期生 榎本)

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