冬の訪れとともに木枯らしが舞い、長い夜の時間が過ぎる頃。音楽にゆっくり向き合うことのできる季節がやってきました。5人組ヴォーカリストのゴスペラーズがオーケストラと組むコンサートが東京文化会館で開演された11月の夕刻、コートの襟を少し立てて上野まで出かけてみました。
今宵の指揮者は田中祐子さん、N響はじめ全国各地で客演を重ねています。オーケストラは東京フィルビルボードクラシックス。新しい音楽を開拓する意思のもと関東関西の主要オーケストラから選抜された俊英演奏家たちが集結したと言われるビルボードクラシックスオーケストラは、57名のフルオーケストラという構成でした。
前半はゴスペラーズ往年のナンバー『ひとり』『星屑の街』『ミモザ』など(下左写真click:当日プログラム)。結成31年のハーモニーはお互いの信頼感でより一層厚みを増しているかのように豊かな音色となって心に届きました。指揮者の田中祐子さんは「オペラのように5人の呼吸を聞きながらタクトを振りたい。」と言います。5人の個性的なハーモニーや呼吸を生かすようにオーケストラの音色が響き、優雅でしなやかな指揮者の醸し出す雰囲気がホール全体を茜色に染めていきました。
後半は「展覧会のゴスペラーズ」と称し、芸術の森、上野に因み、「展覧会」に見立てゴスペラーズメドレーを歌い奏でるというものでした。さながらゴッホやマティス、セザンヌの絵のようにゴスペラーズの曲を絵に喩え、絵と絵、すなわち曲と曲を繋ぐプロムナードの役割をオーケストラが果たす。オーケストラが奏でる楽曲はムソルグスキー組曲「展覧会の絵」というしかけでした。前半、けっして前に出ないオーケストラが最後のプロムナードの場面では存分にフルオーケストラの魅力を発揮して、ホールいっぱいに響きわたる音に鳴り止まない拍手が続きました。
東京文化会館は、建築家前川國男の設計による1961竣工された建築物です。前川が師事したル・コルビュジェの世界遺産:国立西洋美術館と向かい合って現存する貴重な文化資産となっています。6角形の大ホールは音響拡散体が取り付けられた傾斜壁や、大きく膨らんだ天井で構成されています。こうした設計が音の響きに奥行き感、立体感、輪郭をもたらして東京文化会館固有の響きを作っていると言われています。
奇跡の音響と語られるホールで奏でられた演奏は、ゴスペラーズの声とオーケストラが呼応して豊かな音となり五感を癒やし、気持ちを充たし、生き生きと前に向かうパワーを受け取ったように感じました。「コロナでずっと行動が制限されて大変だけど、一人でコンサートに行ってみよう、なんて凄いね、いいね。」息子がそっと背中を押してくれました。コンサートホールに響く音色や歌声が幸せの時を紡いで、今年も温かく年は暮れていきます。
(7期生 吉岡)
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