「ホー・ホケキョ」
5月の青空に響き渡るウグイスのさえずり。すぐ近くから聞こえてくるけれど、勢いを増しつつある青葉に阻まれて姿を見ることはできない。第一声を確認したのは、暖かくなりかけた3月末だったか。
「ホ・ホケ!」「ホー・ホキョキョ・・・」というちょっと残念な鳴き声は練習不足の〈くぜり〉と言うそうだ。鳥は生まれながらに美しい声を出せるわけではなく、膨大なボイストレーニングを重ねた結果として、美しいさえずりを手に入れるのだ。
春から夏にかけて耳にする鳥たちのさえずりには重要な意味がある。一つは、オスからメスに向けての求愛の自己アピール。実際、さえずりが上手いと、求愛行動は高まり自分の子孫を残せる確率が高まるという。どの世界でもラブソングが上手いとモテるのだ。
もう一つは、自らの縄張りをアピールする行動。縄張りは繁殖行動をするための拠点であり、ライバルとの直接衝突を回避する空間だ。ライバルと出会う度に闘っていたら、羽や体が傷つき、子孫を残すことはおろか、生き抜くこと自体が難しくなる。鳥たちにとって〈さえずり〉は真に合理的かつ平和的手段なのだ。
他方、仲間とのコミュニケーション手段としての鳴き声が〈地鳴き〉である。京都大学白眉センターの鈴木俊貴さんは、シジュウカラの鳴き声の意味を解明する論文を発表し、動物行動学+言語学という研究分野を構築したことで注目を浴びている。鳥の鳴き声とヒトの言語には共通点があるという。
単独で用いる場合、ヘビがいるなら「ジャージャー」、タカのときは「ヒーヒー」と鳴いて、周囲に警戒を呼びかける。さらに複数の鳴き声(単語)を組み合わせて、複合的な意味を引き出している。「天敵、警戒せよ!」「餌みっけ、よっといで」「怪しい者がいるが、注意して集合」など、単語を組み合わせて文章を作り仲間に伝えているという。
シジュウカラの仲間にはコガラ、ヒガラ、ヤマガラなどがいるが、これらの鳥は種を超え共にカラの学校で学び、お互いの鳴き声=コミュニケーション手段を学習する。小さなカラは学習したコミュニケーション力を活用して、天敵から身を守っているのだ。
このことをNHKの「ダーウィンが来た」で知った私は、早速観察を開始した。シジュウカラの鳴き声を耳にすると木のそばに近寄り反応をみる。それまで騒がしく餌をついばんでいたシジュウカラはピタッと動きを止めて、こちらの様子をうかがう。おそらく「怪しいものを発見!様子を見るべし」というリーダーの鳴き声に他のシジュウカラが反応したのだろう。ついで「危険はなさそうだ。餌を食べよう」の合図に、またおしゃべりをしながら木の実を食べ始めるのだ。私はシジュウカラ語をマスターした気分で鳥たちの会話にしばし耳を傾ける。
シジュウカラは黒いネクタイ模様が特徴の小さな鳥で、ツバメ同様人家の近くに生息する。樹木や電線の上で「ツピ・ツピ」「ツペツペ」と鳴くので見つけやすい。ちなみに求愛行動としてのさえずりは「ツツピー・ツツピー」であり、耳を澄ませるとツピに交じって聞き分けることが可能だ。
長引くコロナ禍にあって身近な自然に目を向けることが多くなった。今まで気が付かなかったことや沢山の不思議に出会う。関心をもって調べてみると、生物が生き延びるための知恵を目の当たりにし、その素晴らしさに驚嘆する。ヒトも鳥を見習って、衝突を回避するための〈さえずり〉ができないものか。そして、国や人種、宗教の壁を越えて、平和的に共存する道はないのだろうか。ふと、そんなことを考えるこの頃である。
(7期 齊藤)
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