セカンドステージ弁護士になる

野澤 正充

   2020年12月24日に60歳の誕生日を迎えた。一般の企業に勤務されている方や公務員の方は定年を迎える年齢であり、その前後に、体調も含めて、さまざまな変化を経験された方も多いのではないだろうか。私自身も、立教大学の定年が65歳であり、「60」という数字や「還暦」という言葉に格別の思いはなかったものの、社会的な役割も終わりに近づくせいか、ある種の閉塞感を感じざるを得なかった。もちろん、この閉塞感には、コロナ禍の影響もあったのかもしれない。
 このようなときは、新しいことを始めるのではなく、それまで積み重ねてきたことを温めながら、静かな余生を迎える準備をするのがよいのかもしれない。しかし、私自身は、社会に少しでも役立てれば、という気持ちで、弁護士になることにした。もっとも、私のような法学部の教員にとっては、弁護士登録そのものは難しいことではない。まして、35年前とはいえ、司法試験にも合格しているため、弁護士会では何の問題もなく登録が認められた。しかし、大学で研究のみに従事していた者には、弁護士業は未知の世界であり、当然のことながら顧客もいない。定年後に弁護士登録をしたいと考えている大学教員も多いと思われるが、そもそも受け入れてくれる弁護士事務所を探すのが大変である。
 私の場合には、幸いにも、松田綜合法律事務所に籍を置かせていただくことができた。同事務所は、大手町に所在する企業法務が中心のロー・ファームであるが、一般の民事事件も含めて幅広い分野を扱っている。所属の弁護士はみな若くて優秀であり、真摯に案件に取り組んでいる姿勢からは、日々学ばされることばかりである。以前に、ロバート・デ・ニーロが70歳で会社のインターンになる「マイ・インターン」という映画があったが、そのような感じだろうか。もちろん、私はロバート・デ・ニーロではないし、映画は2時間でハッピーエンドを迎えるが、現実は甘くない。事務所の売上げには全く貢献していないことを心苦しく思いながらも、実務の物事の見方や考え方から新たな知見と刺激を受けている。
 思いがけない副次的効果もあった。弁護士業に向き合うなかで、自分がこれまで行ってきた「研究」という仕事が何だったのか、を改めて見直すことができた。そのやり残した仕事を、限られた時間の中でまとめたいと考えている。そして、当然のことながら「教育」にも、新たな広がりがあるのではないか、との期待を抱いている。
 RSSCも、シニアに新たな環境や知的な刺激を提供する場である。この「場」を生かして、自らの人生と改めて向き合い、セカンドステージへと進んでいただければ幸いである。そして、私の授業もその一助となることができるよう精進したいと考えている。

 

この記事の投稿者

編集チーム 十四期生