猫とのコミュニケーション

平賀正子

 「おねこちゃん」―これは私が小さいときのあだ名である。なぜなのかというと、弟が生まれ「おねーちゃん」と呼ばれ始め、それがいつか「おね子ちゃん」になったのだろう。おぼろげな記憶だが、3世代で住んでいた家の庭には2、3匹の猫がいた。縁の下で仔猫が生まれたこともあった。祖父母と縁側で撮った写真には、でっぷりとした日本猫が眠そうに一緒に写っている。
 それから40年ほどの月日が過ぎ、やっと我が家にアビシニアンの仔猫を迎えることができた。ここ20年で3匹、飛悟(ヒューゴ)、真理、譲二という。名前の通り、頭の良い猫だと親馬鹿を自称している。特に、今飼っている譲二は、夫の祖父の一字をもらい、次男なので「二」としたのだが、お喋りで賢い猫である。現在1歳3ヶ月。生後3ヶ月で我が家に来た譲二は、初めてのウエットフードを与えられ、一口ごとに猫にはあるまじきすごい唸り声で「ウウオー」「ウウオー」と鳴いた。きっとすごく美味しかったのだろう。私が理解できる譲二の鳴き声はそれ以降随分増えて、「お腹がすいた」「いいウンチが出た」「遊んで」「一人にして頂戴」「もっと撫でて」から始まり、「そんな猫まねの鳴き声で呼んでも駄目だよ」「ママのこと心配している」のような私の独りよがりの解釈にまで及んでいる。
 コミュニケーションの解釈の基本は、それが起きている「場」にあると日頃講義している私からすると、正に猫とのコミュニケーションによって教えられることが多い。こちらがよほどしっかりと「場」を見据えないと、誤解してしまうことが多いからである。これを書いている今も譲二は本棚の一番上から私を見下ろしながら「僕をほったらかして何やってるの」と大きな声で鳴いている。