昨年の12月11日のお昼時, 丸の内仲通には5万人を超えるラグビーファンが集結していた。 NIWAKAファンも自称ラグビー通のファンもそのときを一緒に待っていた。
この日桜の戦士,ラグビーワールドカップ(RWC)日本代表(だった) 選手28名によるサポーターへの感謝を表すパレードが挙行されたのだ。 ファンたちはむしろ彼等が成し遂げた壮挙に対して感謝を直接伝えたかった。主将リーチに率いられた男たちは窮屈そうに通りを歩いていた。きっとお揃いの黒のスーツのせいではなく, あの日のように縦横無尽に走ることができないからだと思った。
群衆のひとりである筆者は9月末から始まった長いようで実に短かった幸せな40日余りの特別な日々を振り返っていた。結局準決勝2試合と決勝戦を含む7試合を観戦した。必ずしも見易い席を確保していたわけではない。いやそれどころかほとんどのチケットはフィールドから遠く, 会場に設えた大型スクリーンを度々眺めなければならないほどの不便さを強いられた。ゲームそのものに集中するには, 自宅でテレビ観戦する方がよほど賢明に違いない。
それでも事前に予定していた3試合を遥かに超える費用と時間を費やしたのにはそれなりの理由がある。ゲームを含め試合会場と会場周辺の場の空気を呼吸して身を委ねることにあった。単に試合を見に行く行為とは異なる性格のもので, 空間と時間を共有する行為と言っていいだろう。
それでは誰と共有するのか? 日本代表選手たちは勿論だが彼等だけではない。手強い相手チームの選手たち、他の日本のサポーターたち, さらに遠来の他国からのサポーターたちを含むのだ。
そこで昨年の流行語大賞に選ばれたOne Team以上に輝いた忘れてはならないコトバがある。それは”respect”である。場と時間の共有はrespectによって紐帯へと昇華したのである。ハーフタイムで合唱する歌は決まってCountry RoadかSweet Carolineである。老若男女、国籍を問わず声を張り上げて歌う。サッカーとは異なりサポーターの座席配置には国境がなく、現実社会のように敵味方隣同士でこの瞬間をお互いに愉しんでいる。
もう一つ付言しておきたいのは選手とサポーターの近さである。台風のため試合中止が決まった釜石市におけるカナダ選手たちの奉仕活動に限らず、ホストタウンでの様々な市民と選手たちとの交流が報じられた。東京一局主義ではない地域分散型の一大イベントの成功は、人間関係の距離感が至近であることに負っている。長丁場のトーナメントと決勝ラウンドを母国を離れて過ごす選手には、普段着で過ごせる場所が必要だった。
それは10月4日に起こった偶然の出来事。法事で福岡市入りした初夏を思わせる強い日差しの下、薬院大通を歩いていたときにカフェのバルコニーで寛ぐ大男たちの集団が目についた。もしやと思って数人の顔を確認すると, 間違いない。一週間後にサモアとの戦いを控え, 早期に現地入りしたアイルランドラグビーのメンバーたちだ。
それとなくカフェに入店しキャッシャー付近である選手と会話し終わった頃、お目当の彼は席を立った。追いかけて思い切って話しかけると気さくに応じてくれる。週末のサモア戦の健闘を心から伝え、写真撮影を請うた。興奮で自撮りレンズの向きが逆だった。それを指摘してくれた彼は, 世界的に超有名な司令塔スタンドオフ、Johnny Sexton氏である。パチリ! この些細な出来事がどんなにかひとりの日本人サポーターを幸福にするかを彼は十分理解していた。
人生が100年だとすれば, もう一度日本でRWCを観る機会が来るに違いない。そのときあなたとは試合会場でrespectしあいましょう。ビール片手に。(7期生 黒田)
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