今年の4月9日から1週間ほど京都・奈良を旅して来た。今回私は先ず新幹線で京都から入り、原谷苑の枝垂れ桜を見て一泊後に奈良の古刹の数々を巡る予定にした。原谷苑は個人所有の庭園だが、枝垂れ桜が見頃を迎えると一般公開されている。旅の出発前に桜の時期が終わっているかと心配していたのだが、着いてみるとまだ八分咲きの状態であった。桜の見頃は毎年時期が異なるので満開に当たるのは難しい。しかし満開を控えた枝垂れ桜はそれなりに楚々として美しかった。
その後もしや哲学の道の桜も満開が遅れていれば見られるのではないかと思い、急遽タクシーで向かうことにした。到着すると満開のソメイヨシノの下を沢山の人が歩いていた。よく見ると多くは外人であった。運転手氏によると同時期にこの両方の桜が鑑賞出来るのは珍しいとの事であり、私は滅多にない年に来て貴重な経験が出来たようだった。
翌日にはJRで奈良に向かい、斑鳩の里にある法隆寺を訪れた。長年の念願の寺だったが、本堂、夢殿、庭園等も立派で美しく期待通りだった。そしてすぐ隣の中宮寺は大規模な法隆寺等とは対照的にまた別世界の閑静な寺だった。堂内中央に国宝菩薩半跏像が静やかに祀られており、その姿は大変印象に残る美しさであった。
次に近鉄線でいよいよ奈良県中部の初めて橿原神宮駅前に宿を取り、飛鳥の里を目指す。
ホテルの朝食にあまり見かけない程のLLサイズのゆで卵が出て少々驚く。また奈良の料理はダシがきいて塩分が薄いが、私は数日の滞在ですっかり慣れてしまった。
飛鳥の里を周るには次の飛鳥駅まで電車で行って、そこからスタートするのが定番コースだ。しかし私が宿泊した橿原神宮駅から飛鳥寺等迄は大体同じ位の距離なので、駅前でレンタサイクルをしてそこから向かうことにした。地図をもらい自信満々で出発したが、結構迷ってしまった。やっぱり飛鳥駅から行けば良かったかと後悔したが、何度も人に聞いてやっと飛鳥寺に着いた時は汗だくになっていた。しかしその後は表示が分かりやすく回る事が出来、行くごとに歴史の大舞台が現われ感動の連続であった。特に橘寺は聖徳太子の生誕の地と聞くが、美しい花や木々が良く手入れをされており何とも心が和む光景だった。今は私のお気に入りの寺の一つになっている。
次に石舞台古墳、高松塚古墳等も巡ったが、遺跡がしっかりと残されており、私は「これは日本のエジプト・ピラミッドのようだ」と一人で悦に入った。勿論規模の大きさから言うと比べ物にならないが、日本の歴史の遺跡を目のあたりに出来た事に嬉しくなるのだった。
奈良の最後の寺は當間寺(たいまでら・当麻寺)だった。そこは橿原神宮駅から電車で15分程行った所にある。4月25日に年一度の練り供養が行われるとの事だった。境内に高く上げて作られた借り廊下の上を着物姿の子供や女性、金のお面を被り金襴緞子等の衣装で菩薩に変装した人々が約1時間練り歩く。あいにく小雨の天候だったが予定通り行われ、大勢の観客を喜ばせた。私は早くから待ち、本堂のひさしの下で見ることができた。
この當間寺の近くにある石光寺も庭の美しい一見の価値のある寺と思った。近年日本最古の石仏も出土されたそうだが、何とも素朴な可愛らしい石仏だった。
今回の私の旅は作家五木寛之氏の十数年前の書『五木寛之の百寺巡礼』や『旅のヒント』等から興味をそそられ実行に至った。五木氏自身は長年仕事を兼ねて旅行の多い日常で、その経験から次の様に述べている。「旅は自分の健康の源である。旅では常に動物のような警戒心を持って移動し、知らない人々、食べ物、そこの土地のエネルギーを吸収していく。それが心身の活性化を促すようだ。旅は見えない学校でもある。」桜が至る所に咲いており古都を美しく飾っている中、私はこの旅を終えた。(7期生 酒井 英子)
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