大学で1年間、学生の就職支援(常勤)に携わっていたが、この4月から再び自由な生活に戻り、市民講座と旅行&温泉を楽しんでいる。4月強羅温泉、5月箱根大平台温泉、軽井沢、6月ポルトガル、万座温泉,7月軽井沢、伊香保温泉、8月軽井沢、9月はシルクロードツアー参加予定。しかし、ベースは読書の楽しみのようである。
新聞書評欄(8月)の『孤独な発明』(講談社、評論家三浦雅士著)紹介記事によると、「犬も猫も他の動物も、孤独を知らない。孤独を知っているのは人間だけだ。孤独とは孤立、内閉ではなく、自分で自分自身に話しかけている状態であり、それは言語の獲得なしには可能とならなかった特異な体験なのだ。」そうだ。私の場合は「孤独」というよりも、興味深いテーマを論じた本を通して自分自身と語り合う「孤読」を楽しんでいる。今年、「孤読」を楽しめた何冊かをご参考までに紹介したい。
原武史(近代天皇制研究者)『大正天皇』(朝日文庫)
大正天皇に関する本格的な評伝や研究書が殆ど無い中、その生涯をたどり実像にせまった傑作評伝で、ドキュメンタリーを視ているが如くであった。生まれながら病弱の皇太子の健康が結婚を機に回復に向かい、明治30年代になると明治天皇に代わり地方巡啓で全国をまわった。「現人神」の明治天皇と異なり、地方での人間的なエピソードの数々や家庭的な素顔が表わされているが、天皇になってから健康状態に変調を見せ始め、自らの意思に反して強制的に「押し込め」られてしまう状況が描かれている。本書で、今までの私の大正天皇像が変わった。
慶大教授横手慎二『スタ-リン「非道の独裁者」の実像』(中公新書)
1936年~1938年政治的大粛清で68万人を処刑し、農業集団化や過酷な穀物調達政策により、400万人~500万人を餓死させたスターリンに抱くイメージは「非道の独裁者」であろう。ソ連崩壊後の新史料や歴史家の専門的研究を取り入れて、グルジアに生まれ、革命家として頭角を現し、非道へのタ-ニングポイントを経て最高指導者としてヒトラーやアメリカと渡り合った彼の生涯の実像に「新しい解釈」でせまっている。ロシア研究第一人者の著作を、映画を観ているような新鮮な感覚で読み切った。
学習院大学学長井上寿一『戦争調査会 幻の政府文書を読み解く』(講談社現代新書)
1945年11月幣原喜重郎内閣が立ち上げた国家プロジェクト=戦争調査会における戦争原因追究の議論(戦争起源、開戦回避の可能性等)内容の読み込みを通して、多くの示唆を提示している。調査会は40回以上の会議を重ねていたが、ソ連、英国、豪州等の反対があり、GHQによって1946年9月末に廃止された。以後敗戦に対する国家としての総括の取り組みがなかったように思う。なお、資料は国立公文書館と国立国会図書館憲政資料室書庫で眠りつづけていたが、2016年から公刊(全15巻)された。
気鋭の若手政治学者白井聡『国体論 菊と星条旗』(集英社選書)
「国体」という言葉・概念を基軸として、明治維新から現在に至るまでの近現代史把握を試みている。戦前の「国体」は破滅的戦争に踏み出し、敗戦で表面的には崩壊したが、再編(菊と星条旗の結合)され、「戦後の国体」=対米従属体制として、連続性を保っている。敗戦後70年もたった日本は果たして独立国と言えるのか、という論旨で展開している。
評論家西部邁『保守の神髄』(講談社現代新書)
「民主主義」という言葉の誤謬性や没落期に入っているという現代文明論等やや難解だが、語源にこだわる西部の論理展開のスタイルが最後の著作で如何なく発揮されている。最終章では、「生き方としての死に方」として病院死でなく「自裁死」を当然と思うと述べ、あとがきでは最後の著述と述べている。読了の翌週著者の入水自殺(本年1月21日)報道に接し衝撃を受けた。
歴史学者山内昌之と佐藤優の対論『悪の指導者論』(小学館新書)
憲政史研究家倉山満『国際法で読み解く戦後史の真実』(PHP新書)
前掲『国体論』『保守の神髄』に加え、平易に書かれているこの2冊をセットとして読んで、ますます混沌としてきている野蛮な国際政治の世界で、どのようにわが国が生き残れるか等のヒントが得られた。
さあ、次の4冊が私を待っている。
立教大学竹中千春教授『ガンディー』(岩波新書)、『天皇はなぜ生き残ったか』(東大教授本郷和人 新潮新書)、『世界史序説』(京都府立大教授岡本隆司 ちくま新書)、『世界神話学入門』(南山大学人類学研究所長後藤明 講談社現代新書)
(七期生 関根重明)
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