新聞の一面を大きく「故郷喪失 慰謝料」の文字が飾っています。原発事故で故郷に帰れない人に支払われるそうです。故郷を無くしている人は沢山いると思いますが、年齢に関係なく支払われるのでしょうか? 私は千葉県市川市で学生時代までを過ごしました。今では実家も無く、親類や仲の良かった友人も住んでおりません。自分の人生で「故郷」を意識して生きてきませんでしたので支給に違和感があります。
現在、東京都府中市には55歳から住み始め13年目になります。町内会の末広自治会と大國魂神社の例大祭を支える本町上組を通して地域社会と繋がりを持っています。社会人となってからは所謂、転勤族で自宅を購入し落ち着き先を決めたのが府中という事です。新宿まで25分と交通の便がよく、新築マンションが多く立ち始めたころに府中へやって来た地場の人達から見ると「新住民」です。
地域と繋がりを持ちたいと思ったのは2005年に93歳で亡くなった母親の葬儀の時です。母が高齢であり、長く親しくしていた友人達も高齢で都心を挟んで遠くに住んでおり、老齢から通夜は夜間の外出の危険、葬儀は通勤時間帯の都心横断の困難と故人を知る参列者が少なかったことです。親族を除くと参列者や弔電は殆ど私の会社関連で、故人の葬儀がこれでよいのかと疑問を持ちました。これからの社会は生まれ育った土地で生涯を終える人は益々少なくなるでしょう。私の都合で母の晩年を彼女の見知らぬ土地で過ごさせたことを申し訳なく思っています。
「あなたの葬儀では誰が受付を引き受けてくれますか?」まるで小谷みどり先生に問いかけられているようですが、親しい友人・ご近所がいなければすべて、「葬儀社まかせ」にならざるを得ません。皆さん自身はどうでしょうか? マンション住まいの多くの方は、隣人の名前も知らず、エレベーターで挨拶もせず、会話するのは管理人さんだけという状況ではないでしょうか? 私のマンションには270世帯が住んで居ますが65歳以上の人は140人を数えます。今後、掲示板に訃報が張られることが増えても所詮、他人事 「マンションはご近所ではない!」が定着していくでしょう。
何故、地域社会・自治会活動に関わるようになったか 葬儀で「受付をしてくれる人」を探すためだけではありません。私の息子達も父親と同じく転勤を繰り返しています。従って、何につけてもご近所が頼りです。孤立しないよう自治会主催の敬老会・子供神輿・防災訓練などを通じて、仲間を増やしています。
千年以上の伝統ある大國魂神社の例大祭「くらやみ祭り」(5月3日~6日)を運営・維持してゆく組織である本町上組に属しています。「くらやみ祭り」のクライマックスは毎年、5月5日の18:00からの渡御で8基の神輿と6張の大太鼓が大鳥居を出ます。本町上組は御霊宮御先払い太鼓を担当しています。神輿は60歳の還暦の時に担ぎましたが、現在は自分自身の危機管理上から引退しています。
おかげで古くから参加する土地の人達と交流が出来ました。50~60年祭りに携わる人の中で十数年の「新住民」が認められるのは大変です。色の違う半纏を着る大祭委員が親しく私にお酌してくれたのは10年以上たった最近のことです。ただ、明らかなことは祭りには「働き手」が必要です。「よそ者」でも誠実な「働き手」は認められます。
しかし、府中第一小学校卒業、青年団、消防団というキャリア本流の価値観持つ超保守的な人達との微妙な溝を埋めるのは難しく、完全に一体化する自信はありません。自分が帰属する社会を守るためには排他的になるのは仕方ないのでしょうか?
慰謝料は貰えませんが私の中の故郷創成に努力します。(7期生 大橋三紀夫)
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