移りゆく季節に、「そうだ。○○へ行こう」と紅葉の映像とともに、CMの音楽が聴こえてきそうな気配。
金木犀が香る秋は、何か物悲しく感じてしまうので好きではないのだが、この曲を聞くと何か良い事が待っていそうな期待感が湧いてくるのは不思議である。
卒寿を迎えた母を「親孝行ツァー」と題し、姉と従姉妹の手を借りて亡き父の故郷・山形へ先月訪れた。実家の札幌(千歳)から山形への直通便がない為、羽田で乗り換えて庄内空港まで戻るという、何とも勿体無い経路だが90歳の身体に負担がないようにした。出発の前日まで、「行く気がしない」と渋々の返事であったが、「老いては、子に従えですよ」と主人に絆されて意を決したようだった。
羽田空港ゲート内での待ち合わせ、航空会社の女性職員に優しく車椅子を押してもらい、満足顔な様子に一言。「こんなに楽ができるのなら、また来れるわね~」と、昨日までの反応とは大違いの言葉に、思わず姉と顔を見合わせてしまった。(そうよ。今回は奮発してプレミアムクラスにしたのよ)痛い出費であったが、母の思わぬ言葉に始まったばかりの旅に安堵した。
山形県三川町押切を訪れたのは54年前の家族旅行。あれから半世紀以上の時が過ぎ、専攻科修了論文がきっかけで訪れた2年前、そして今回は父の弔いを兼ねての訪問になる。
日本海沿岸の湯野浜温泉を宿にし、夕食は郷土料理「地魚のわっぱ煮」をいただいた。PM3時から焼いていたという丸い石を、味噌汁が入っているおひつのような桶に入れ、ハタハタ・鮭や野菜等の具材を次々に入れて、石の余熱で調理するというものだ。魚の身は、ほっこりと味噌仕立てと相性よく、汁を飲み干したいほどだった。セッティングされていた利き酒は、清酒「大山」・純米酒 生酒「なまいき」・生吟醸酒「くどき上手」とネーミングもよろしく、やっぱり米どころのお酒だと感激して、宿の戦略にはまり追加オーダーしてしまった。地球温暖化の影響と品種改良により、美味しいお米が北海道へと移動して来ているというが、新米の「つや姫」も美味だ。
到着時は暴風が吹き荒れていたが、翌日はすっきりと晴れ渡った日本海が見渡せた。
広大な庄内平野に実る稲は黄金色に広がり、遠くには月山が秋の空に映えて見えていたのだが、母の眼には明らかに内地の自然と北海道とは違って見えたようだ。それは、父が生前に、母へ語っていた言葉にあるようだった。
訪れた日はお彼岸の入りにあたり、父の実家の寺をお参りしてから出羽三山のひとつ「羽黒山」へと向かう。樹齢300~500年の山頂に至る山道の杉木立の間に素木造りの国宝・五重塔は、少し離れたご神木に見守られてスクッと建っていた。偶然にも、訪れた一瞬の間だが、ご神木だけに光が差し込んだ光景があった。パワースポットにもなっているというこの地は、目には見えない何かに覆われている気がした。
山の麓にある庄内札所33所霊場の第1番にもなっている羽黒山正善院黄金堂には、羽黒山内の文化財の多くがこのお堂に祀られており、現在でも毎年8月24日~9月1日まで羽黒山伏峰修行が行われているとのことだ。来年の5月~10月の期間に、羽黒山・湯殿山・月山の大権現が一同に御開帳となることを聞き、来年も元気で訪れたいと高齢の母が意欲を持てたことは、思い切って「親孝行ツアー」を実行しての収穫だった。
「秋ふかき季節」に、ルルル♪ルルル♪ルルルル♪の音楽にひかれて、「そうだ。○○へ」訪れてみませんか。
(7期生:梅本)
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