私の哲学遍歴とRSSCでの授業

佐々木一也(RSSC本科ゼミ担当教授)

 本科ゼミおよび「セカンドステージの哲学」を担当している佐々木一也と申します。私の専門は哲学です。中学高校時代に学園紛争を経験し、多様な価値観が対立する状況下で、確かな価値観の獲得が不可欠と思い至り、私は大学で哲学を志しました。根底には当時影響力の全盛にありながら日本人の生活実感にそぐわない唯物論哲学への疑念がありました。当初は実存哲学に関心を持ち、サルトル、ヤスパース、ハイデガーなどを読んでいましたが、結局抽象な概念操作に終始しているので、抽象的議論に無頓着な日本の生活に馴染まないと思われてきました。これらも唯物論同様に革命好きの若者向きの哲学でした。人生経験抜きに若者でも真理を掴めるというプラトン風の哲学だったのですが、唯物論も実存哲学も若者の運動熱が去ると下火になりました。日本に定着する哲学とは何かわからなくなり、挫折しかかっていたところ、ガダマーの解釈学的哲学に出会って目を開かれました。この哲学は歴史を積み重ねてきた伝統的生活様式による経験こそが哲学的真理に到達する道だと説きます。日本の生活も哲学の原点であり得るのです。解釈学は人の考えが生活経験による先入観に規定されていることを暴きます。現代はグローバル化時代と言われますが、実は人類共通の知的物差しはないのです。日本の世間での発想も哲学の出発点になるのです。このことを大前提として、私は「世間の哲学」を標榜してあらゆる事象に切り込みます。私のゼミ運営はその哲学の精神によって行っており、生活経験に基づくテーマ設定を大切にします。「セカンドステージの哲学」では日本のシニアの皆さんが発信できる哲学について解釈学的に解き明かします。

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編集チーム 十六期生