以前にも書いたが、「太極拳」が今の自分の「ライフワーク」となっている。比べない、競わない「健康太極拳」を広めるNPOの活動に参加しながら、カルチャーセンターやジムにも通い、仲間との太極拳の“稽古“を楽しんでいる(マスク着用と間隔確保は必須)。また、毎朝20~30分、家の中でも太極拳の套路(型)を練習するのが、洗顔や歯磨きのように自然と身についた日課になっている。そんな「太極拳」中心の生活を、コロナ禍のここ2年ほど続けている。
※左写真出所:「明鏡止水~武のKAMIWAZA~」(NHK総合)
そもそも太極拳との出会いは、今から40年ほど前に遡る。新宿にあるカルチャーセンターの土曜教室で純粋に好奇心から習い始めた。当時は今と違い、太極拳を知る人は多くなく、知っていても中国のゆっくり優雅に動く単純な健康体操と思われていた。競技としての「武術太極拳」がTV放映される現在と違って、太極拳という名前から“拳法”を連想できても、そのゆっくりとした動きに、武術本来の攻防のエッセンスが秘められていることはあまり知られていなかった。空手の型が技の奥義や極意を秘めているように、「健康太極拳」の套路にも、独特な技の本質が多く秘められている。そこが筋トレや柔軟体操、或いはラジオ体操と大きく異なる点である。
それではなぜ、ゆっくりとした太極拳の動きが武術と言えるのであろうか。その答えは、太極拳の聖典ともいわれ、太極拳の名前の由来となった理論書『太極拳経』(王宗岳著)に書かれている。その解説書『至虚への道』(二玄社、楊進著)によると、「自分の力を用いず、楽な姿勢で、相手の力を利用する」「相手の動作に自己の動作を絡めて(シンクロさせて)、相手より速く動かず、遅れても動かず、動作を緻密に制御する」「常に力と力のぶつかり合い(双重)を避ける」「自分に向けられた相手の力を少しだけそらせる」ことが太極拳の動きの本質であるという。この動きを習得すれば、非力なゆっくり動く弱者でも、力の強い速い動きの相手にも勝てるという。実際に“技”を習得できるか否かは別にして、物理の常識を否定するような『太極拳経』の理論、「以弱勝強」は大変興味深い。
4月9日に放送されたTV番組「明鏡止水~武のKAMIWAZA~」(NHK総合、MC岡田准一)では、空手をはじめ、剣術、居合、太極拳の達人が招かれ、それぞれの型や技が「KAMIWAZA」として紹介された。特に空手と太極拳の違いは面白く、空手が直線的で速い動き、瞬発力と力強さが身上であるのに対し、太極拳は曲線的(円運動)でゆっくり動き、柔らかさ(力を用いない)が際立っていた。相手に軽く触れるだけで、相手が自ら体勢を崩し転んでいくのは、見ていて不思議であった。
毎日TVニュースで伝えられるウクライナの惨状を目にするにつけ、この太極拳の不思議な攻防理論が、国と国との力のぶつかり合いにも応用できればと、ふと考えずにはいられなかった。
(7期生 北原)
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