我が家から20分ほどのところに落合川は流れる。全長3.5km、東久留米市八幡町を源流とし、埼玉県境付近で黒目川に合流する。この川を流れる水のほとんどは南沢湧水群と川のあちこちから湧き出たもので、その水量はなんと、一日1万トン、平成の名水百選にも選ばれている。数年前の暑い夏にRSSCのフィールドワークで訪れるまでは、近くにこんなにも自然豊かな川があることを知らなかった。
この川が住人の憩いの場となるまでには、多くの人々の努力があったことはいうまでもない。1970年半ばまで、この川は生活排水で汚染され、かつ、1992年に河川工事が行われると、湧水が涸れてしまった。しかし、2008年に突如湧水がよみがえると、行政と住民が協力し、生態系の豊かな川を取り戻すための活動を開始したのである。この川は人の手によって豊かな自然を取り戻した川だ。
この川を足しげく訪れるようになったのは、昨年の桜の季節。それから1年が経ち、四つの季節を歩いた。季節ごとに咲き誇る様々な樹木や草花が川の表情を変え、歩く人の心を和ませる。何よりも、いつ何時も澱むことなく流れるせせらぎが心地よい。
この川では準絶滅危惧種のナガエミクリ、タコノアシ、ミズニラをはじめとして約800種の生物を確認できる。また、点在する湧水点にはクレソンが自生しており、春先には水の中から顔を出す。4月になると、むっくりと背をもたげ、可憐な白い花を咲かせる。ひと月後には子供の背丈ほどになって川を埋め尽くす。
年間を通して水温15℃の川にはサギ類、カモ類、さらにカワウなど多くの水鳥が生息している。ホトケドジョウ、オイカワ、川エビのほか、ヤゴ、カワニナ、イトミミズなど餌が豊富だ。2月、恋の季節を迎える前の鳥たちがエネルギーを蓄えるためにやってくる。効率よく体にため込むことが、自らの遺伝子を残すことに直結しているという。まだ春浅い時期であっても、川はつがいを求めてやってきたカモ類で埋め尽くされ、縄張り争いや恋の駆け引きをする鳴き声であふれる。5月、恋の季節が終わり静かになった川では、かえったばかりのヒナが母カモに守られてと泳ぐ姿が見られる。
水鳥の餌の採り方はユニークだ。哲学者のような趣をもってじっと一点を見つめるダイサギやアオサギは、チャンスが来ると首のみを動かして一瞬で餌を確保する。カモは体半分を水中に入れ、逆立ちをして餌をとる。泳ぎが達者なカワウは真っ黒な潜水艦のようだ。水中から顔を上げたときは嘴でしっかり小魚をくわえている。
ここでは水鳥だけでなく、様々な種類の鳥を目にすることができる。春まだ早い頃、枯れた葦のあたりからガサガサという低い声が聞こえる。眼を凝らすと、薄汚れた緑色の鳥がいる。竹藪や葦の枯草の間で冬越しをするウグイスだ。本来の鳴き方を思い出して?ホーホケキョと鳴くのはもう少し後だ。
おじさんたちがカメラを抱えて集まっている。高そうな望遠レンズの先には色鮮やかなカワセミの姿が。ここで営巣をしているので、一年を通して目にすることができる。初夏。ツーピツーピというせわしない鳴き声。見上げれば、青葉の中に白いおなかに黒いネクタイ模様が見える。シジュウカラの子供たちが桑の実を啄んでいる。木を突いているコゲラを見つけたら、「ラッキー!」と思わず呟いてしまう。
暑い盛りは子供たちが川遊びに興ずる。少し離れた場所で釣り糸を垂れる太公望の姿。おばさんはミント摘みに精を出す。大勢の人が川で憩う。住民の手で川を守る活動は今も続いている。蛍の夕べ、川塾などの学びの場も豊富だ。子供たちによる清掃活動や川を学ぶ活動が奇跡の川を守っている。
(7期 齊藤)
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