今年(2020年)は、年初から世界中で新型コロナウイルス(正式名COⅤID-19)というとてつもない感染病が世界中に広がり、日増しに猖獗を極めている。そのため、国内外を問わず、経済的・社会的生活の制限が強化され、外出もままならない日々が続いている。この終息が長引けば、人類の危機にまで言及する論評もあるが、少なくても人間の生活様式が大きく変化する可能性は大いにあり得そうだ。
この度の災厄に限ったことではないが、最近の世の中の変化は、所謂IT化ということに影響されて、大きく変化して来ている。人間関係が希薄になり、人と会話をしない、仕事もテレワークなどという、人間と人間が直接会ったり話したりしないことが常識になっていくのか。世の中は、人と人が絡み合って社会を作り、その社会の中で人間が生き、人間社会を発展させてきたはずだ。現在の人類が出現して数万年。その間進化させて来たそういう人間性そのものが、この数十年くらいであっという間に変わっていくのだろうか。そんなことを思っている昨今、手塚治虫のライフワークというべき「火の鳥」を読み返してみた。ちなみに私は氏を私淑し尊敬しているので勝手に手塚氏を“手塚先生”呼んでいる。
「火の鳥」という漫画は読んだ方も多いかと思うが、この大スペクタクルシリーズは時間と空間を超えた壮大な人間ドラマである。狂言回しとでも言おうか、このシリーズのすべての語り手である火の鳥。鳳凰、不死鳥、ファイヤーバードなどと呼ばれ、世界の伝説に登場する不老不死の鳥を擬人化し、すべての時空に存在しうる宇宙生命「コスモゾーン」と位置付けてある。小は分子、素粒子から、大は現世界から地球規模、太陽系、銀河を超え、無限に広がる宇宙の果てまでも一つの宇宙とみなし、そのすべてを見渡せる能力のある火の鳥が、時間、空間を超えて見てきたことを語っている物語である。場面の設定は、日本や世界の古代社会の話、中世、近代の世の中、そして近未来やとうとう破滅を迎える地球最後の日など。また、地球外の惑星でおきたこと、宇宙空間で地球人が体験したことなど様々な時空に亘る。
物語は、そんな中未来の地球では人類はとうとう巨大コンピューターに完全に支配される世の中なってしまい、人間はそのコンピューターの言う通りにすべて行動し、すべてが存在している。ある時4大都市にあるそれぞれの巨大コンピューター同士の意見の相違が起き、対立が戦争を引き起こし一瞬にして地球が破滅する。それでも火の鳥は人間をあきらめず、一人の人間を選びもう一度初めからやり直させようとする。このように展開していくドラマである。
この作品を書いた手塚治虫が、今日日のコロナ禍を予言したとは思わないが、多くの時代の事象を想い・創り出したこの天才の作品を読み返すにつれ、いま、我々求められていること、しなければいけないことはなにかを考えさせられる。地球が病み、それをもたらせた人間自身の社会的営みそのものが変質して行きそうな今、私たちがすべきことは何かを、作品の中からひとつでも読み取れたらと思う。
栄華を極めたある生物が衰退・滅亡していく様を見ながら、火の鳥が述懐する場面がある。
「高等な生物だったこともあった。ここではどうしてどの生物も間違った方向へ進化してしまうのだろう。人間だって同じだ。どんどん文明を進歩させて、結局は自分で自分の首をしめてしまうのに。(略)でも今度こそ信じたい。今度の人類こそきっとどこかで間違いに気が付いて生命(いのち)を正しく使ってくれるようになるだろうと。」 出所: 手塚治虫「火の鳥:未来編」(角川書店)P281-282
(7期生 佐野英二)
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