紫陽花の花が咲き乱れる季節。雨も同時にやって来る。 『羊と鋼の森』で本屋大賞を受賞した宮下奈都氏なら、湿気を含んで重く感じる空気をどう表現するのだろう?
「雨のにおいがする。」―なわけないか・・・。
これから7月半ば過ぎまで雨とともに過ごす毎日である。五穀豊穣に欠かせない恵みの雨と分かっていても、このジメジメ感ウツウツ感は何とかできないものか。
私が勤務してきた小学校では、雨の季節に「あじさい読書旬間」というものがあった。(もちろん秋は「もみじ読書旬間」)
この期間は気合を入れて、子どもたちと本の出合いの場を工夫する。図書室では新しい本や季節にあった読み物、先生方のお薦めの本をディスプレイして子どもたちの来室を待つ。雨で外遊びができない子どもたちは図書室で思い思いに本と接して休み時間を過ごすのだ。
年間を通して朝読書を一日の始まりに組み込む活動もしてきた。朝読書の継続は学校全体を落ち着かせる効果がある、というのが私の実感。読書が得意でない子どもへは読み聞かせがおすすめだ。落ち着きのない子もおしゃべり好きもいったん読み聞かせが始まると本の世界に耳を傾ける。読み聞かせの後で、同じ本を自分で読みたがる子も多い。今も保護者による読み聞かせの活動は盛んだ。蔵書数の増加や司書の配置など学校における読書環境は整備され、子どもと本との出合いを応援してきた。
この年になって、もっと読書をしておくのだった、という想いがある。
私はあまり熱心に読書をする子どもではなかった。今ほど児童書が揃っていなかったし、人気のシャーロック・ホームズやルパンはいつも貸し出し中であった。お恥ずかしい話だが、学生時代は特定の作家の作品ばかり読んでいて、本当に貧弱な読書経験しかないのだ。
大人になってからは仕事と日々の生活に追われ、自分のための読書ができるようになったのはここ10年くらいのことだ。相変わらず、気になる作家の作品を読み尽くすという読書方法であるが、これに本屋大賞と直木賞作品が加わることでなんとかバランスを保ってきた。題と作家名、登場人物と簡単なストーリー、自分なりの評価を○△×でノートに記録してきた。
ここ数年、読書会に加わることで、新たな読書の楽しみを知ることができたように思う。本の選定や感想を伝えるのはそれなりにシンドイものがあるが、メンバーの感想を聞いて、いろいろな読み方があることに納得。これまで独りよがりな読書をしてきたが、読書会のおかげで様々なジャンル・作家の本と出合うチャンスが広がった。ジムで知り合った人たちと本についての情報交換をすることも多い。偶然街で出会ってそのままコーヒーショップに入り、本の話に花を咲かせることもある。話題の本を数人で読み、お酒を飲みながら読書後の感想や疑問を語り合うのも楽しい。基本、シニアは読書好き、語り好きなのだ。
近頃は本との出合いの場としてブックカフェなる空間が増えている。コーヒーの香りの中で、ふと手に取った本の面白さに時間を忘れて読み耽る。何とも贅沢な時間だ。袋綴じされて書名も分からない本を購入すれば、思いがけない本との出合いが生まれるかもしれない。
本との出合いの場といえば、店舗数は激減しているが街の本屋さんは外せない。購入する本を決めて行くこともあるが、フラッと立ち寄ることが多い。雑誌から単行本・文庫本のコーナーまでぐるりと店内を回る。本の帯を頼りに気になった本のページをパラパラとめくる。なんて贅沢な空間!
さて、今年も私の「あじさい読書旬間」が始まった。
雨のにおいを感じながら本とともにいる時間を楽しむことにしよう。(7期生 齊藤)
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